第28話 リットの立場
「……本当……なの?」
それでも疑い深くフィネットがそう訊ねると、リットは深々と頷く。
「研究所も含めて、皇帝には秘密が多過ぎる。だから、裏切る事にした。
本来は、もっと慎重に動くつもりだった。
だが、お前たちの持つ情報を、皇帝に渡す訳にはいかない!
これ以上に研究所が力を付ければ、どんな力を以てしても止める事は出来なくなる!
皇帝の手におまえたちを引き渡すぐらいだったら、私は人類の為にお前たちを殺す!」
「……俺たちと協力する事は考えなかったのか?」
「お前は目立ち過ぎた!
私一人の力では、隠す事も逃す事も出来ない!」
「ならば何故、ステイブ中将に協力を求めなかった?!」
「彼らはもうすぐ処分される予定だったからだ!
ヘタをすれば、研究所直属の特殊部隊の手によって!
……レズィン。世界一の拷問など、受けたくは無いだろう?」
レズィンにようやく、リットの本心が見えて来た。
リットにとっても苦渋の選択だったのだ。
最悪の事態まで考えて、その中で一番マシな手段を選んで。
レズィンは、全てを話してしまおうかとも考える。
だが、一つの可能性が消えていない限り、それも時間稼ぎにしかならないだろう。
「なぁ、リット。
どちらにしろ、俺たちは殺すつもりだったんだろう?」
「――ああ」
「どうしてよ、兄貴!」
だろうなと、レズィンは心の中で呟く。
予想通りの答えだった。
その為に妹すら撃った男だ。シヴァンに銃が通じないという事実を信じていない以上、その選択肢を選ぶだろう。
「――なら、教えられねぇよ」
「――そうか。それも仕方が無い。
最後に言い残す事はあるか?」
「ああ。
シヴァン!無理矢理引き摺ってでも、姉さんを森に連れて帰れ!
邪魔する奴がいたら、相手が誰であろうと、ぶちのめして行け!
……それと、力になれなくて、悪かった。姉さんにも、そう伝えておいてくれ」
レズィンの言葉に、リットは困惑したような表情を浮かべる。
「まさか、彼女たちは見逃すとでも思ったのか?」
「思っちゃいないさ。
思っちゃいないけど……ま、世の中、色々あらぁな」
「――そうか。
先に、あの世で待っていろ」
「駄目ぇーっ!」
泣きながら止めようとするフィネットを力ずくで払い除け、リットはゆっくりと引き金を引き絞った。
……カチンッ。
銃声は、無かった。代わりに、徐々に大きくなる低い唸りのような音が聞こえて来た。
「……何だ、この音は?」