ラフィアの心

第32話 ラフィアの心

「シヴァンも、そうなのか?」

 ラフィアが首を横に振る。
 
「世界樹と一緒に暮らしてても、寂しかったから、世界樹に頼んで、私の身体から人間を作って貰ったの。

 その過程で、半分植物と云う体質は取り除かれて……。
 
 本当は弟が良かったんだけど、良く分からないって……」
 
「それって、ひょっとすると親子になるんじゃないのか?」

「双子みたいなものだって。

 嬉しくて、その子の為にいっぱいオモチャも用意して。
 
 レズィンさんが持っていたのも、その一つだったんだ。
 
 でも、頼んでから何十年も待たされて、ずっと寂しかった……」
 
 最後の方は、涙声になりそうになりながらのセリフだった。
 
 目には涙を溜めて振り返り、レズィンに抱き付き、その胸に顔を埋めた。
 
「もう、一人になんてなりたくない!

 あんなところに帰りたくない!
 
 世界樹は、何故私を閉じ込めるの?
 
 レズィンさんが来なければ、レズィンさんが世界樹に色々な事を教えてくれなかったら、外になんて出してくれなかった!
 
 何で、私の心を奪っていくの?
 
 何で、私の記憶を奪っていくの?
 
 何で、私を作ろうとするの?
 
 お願い、レズィン。私を助けて!」
 
 取り留めもなく言葉を零すラフィアを、レズィンは優しく抱きしめてやった。
 
 何十年もの間、孤独と戦っていたのだろうか。
 
 それは想像を絶する辛さだったに違いない。
 
「俺が目を覚ますと、世界樹の中のそこら中に、姉さんの心のコピーと消えかけたその欠片が散らばっていた。

 初めは理解出来なかったが、世界樹が人間の心を理解する為に分解していたらしい。
 
 文字通り、姉さんの心は、その時には既に壊されていた。
 
 手の届く範囲は整理して、姉さんも今のように正気に戻ったが、世界樹の中に居ると、時々、遠くで自分の心を壊されるのを感じるらしい。
 
 姉さんは俺と違って、自由に出入り出来ないようにされていたからな。
 
 何度も逃げ出そうとして、その度に竜に連れ戻されていた。
 
 レズィン。おまえは一体、世界樹に何を教えた?」
 
「……何にも、教えた覚えはねぇけどなぁ」

 ラフィアになら幾つか訊ねられたことを答えた覚えがあるが、その程度しか、レズィンには思い付かなかった。
 
「――竜を探していたから。

 竜を探している人が、レズィンさんの他にも居る事を知ったから。
 
 竜は世界樹の子供だから、守ろうとしたの。
 
 自分では動けないから、私を使って」
 
「守ってやる必要なんざ、ねぇと思うんだけどなぁ……」

「世界樹の、本能なんだと思います」

「そもそも何故、植物の種が竜なんだ?

 理由を知っていたら、教えてくれ」
 
「――そうじゃなければ、増える事は出来ませんから」

「増える?あんなものが増えるのか?

 そうか、考えてみれば、生き物なんだから、増えて当然だ。
 
 ……あんなものが、竜の数だけ、増える?」
 
 数日森を彷徨っていただけで、レズィンは20もの竜に出くわしている。
 
 広いその森の奥地にしか棲んでいないとはいえ、森全体でどれだけの数がいるのかと考えると、末恐ろしい。
 
「――そんなには、増えません。

 彼らは、時期が来ると宇宙を旅して、他の惑星へと移り住み、その惑星の軌道をも変えて、世界樹の育ちやすい環境を整えて、そこで育って行くのですから。
 
 あれだけいても、他の惑星に辿り着いて芽を出す子は、ほとんどいませんよ」
 
「他の星ぃ?」