第10話 モンスタープレイヤー
第2次予選。
昼姫は、『バランス型惑星』を引き当てた。
その立ち回りは、岡本に質問して訊いている。
序盤は、生産。人口を増やし、出来るだけ大きな規模で生産を行う。
そして、中盤からは加工貿易。
他の星から材料をトレードして貰い、加工してその商品の価値が高い惑星に売りつける。
終盤までには十分な在庫を揃え、徹底的に高倍率で売り付ける。
下手なトレードをする位ならば、自分で在庫を抱えていた方が、効率が良い。
終盤のトレードは、『鬼になれ』と岡本から言われている。
即ち、勝ち点効率20倍対2倍のトレードを持ち掛ける。
終盤は、勝ち点を稼ぐ方法が足りなくなる惑星が続出するから、そんな暴利でもトレードは成立する。
それでも、勝ち点を2倍でも稼げれば、終盤は十分だと云うプレイヤー心理が働くらしい。
それこそ、『奴隷貿易』をも引き受けるが、奴隷のままでは勝ち点が低いので、頃合いを見て『奴隷解放宣言』をする。
それにより、人口と云う勝ち点が大きく伸びる。
故に、結果論20倍対2倍と云うトレードが成り立つのだ。
ただの土としか思えないものも、陶磁器として焼くことで、商品価値が高まる。
『産業革命』の影響が大きい惑星と言っても、過言ではない。
問題は、『少子高齢化』と云う、全ての文明にとって破滅的な、残酷な宿命である。
ただ、大会中はプレイ時間が限られているので、ソレを引き起こす前に時間制限、勝利点判定と云う結末を得る事も出来る。
結果、昼姫は見事、二次予選通過の30名に選ばれる事が出来た。
その過程で気付いていたのだが、己の惑星の開発は異常なまでに早いのに、トレードがド下手と云うプレイヤーが恐らく5名、二次予選も通過したところを確認する事も出来た。
オンラインでの予選で、プレイヤーが一堂に介している訳でも無いので、どんなプレイヤーなのかは判らなかったが、異常だったのは確かだ。
次の選考が最終選考。国の代表5名が決まる。
国際紛争の代替行為とする『eスポーツ』。別に、サッカーのW杯とかでも良いのでは?と云う意見も出てはいるが、ソレはサッカーが強い国が国遊戯とすればいい。
お互いに得意なところを行なおうとするのだから、結局は対戦相手国の国遊戯の対策と云う事になる。
『Trade around the Star』では、ランキング上位10人の内、9人が日本人である。
残る1人が、8位の中国人・王 李明である。
1人であるが故に、未だ日本は実害を受けていない。
何しろ、他国の排他的経済水域に領土を作るような国だ、その『強欲さ』は半端ではない。
相手国からすれば、宣戦口実になり得る事態である。
むしろ、宣戦口実を与えて攻撃してくるのを待ち、反撃で国ごと頂くような意図が透けて見える。
そう云う時の為の『eスポーツ』による国際紛争の代替行為であるのだが、中国はソレを無視した。
悪魔のような国である。
或いは、このシステムが実効化される前の、勇み足だったのかも知れない。
兎も角、中国は日本が負けてはならぬ国の一つである。
露国と云い、朝国と云い、社会主義国にはロクな国が無い。
やはり、基督教はロクな教えでは無い。
『七つの大罪』は教祖が背負ったから、ソレに関しては全て責任を負う?
なら責任取って見せろよ!
そして、『正義』を『七元徳』の一つに数えるから、『強欲さ』を『正義』の名の下に正当化しようとしている!
所詮、『正義』なぞ戦勝国の『言い訳』なのだから、ちっとも『美徳』では無い!
そして、それを知っている岡本は、昼姫に対してこんな事を言い出した。
「天倉さん。それ相応の覚悟が無いのならば、代表選考会決勝戦は、ワザと負けなさい」
余りにもあんまりな言葉である。
だけど、朝姫たるアタシには判る。
相応の覚悟が無いのならば、『国際紛争の代替行為』である国対国の代表として戦う資格は無い。
そして、それだけの覚悟を決めるには、昼姫は経験知が少な過ぎる。
未だ、一通り全タイプの星の開発も経験していない。
操作スピードが速い。ただ、それだけを武器に戦ってきた。
そして、昼姫は岡本にこう返すのだった。
「私に、決勝戦を勝ち上がる実力はありません」
――と。
そりゃそうだ。世界でトップ10の内、9人が日本に居るのだ。
そんな中でベスト5に勝ち上がるなんて、未だ夢の夢だ。
でも、ベスト30に勝ち上がった事で、昼姫には一社だけとは言え、スポンサーが付いた。
基礎化粧品の会社だった。
強要された、と言えば聞こえは悪いが、その会社の化粧品を使う事を、昼姫は選択し、そして基礎化粧品の提供と共に、報酬が支払われる事になった。
この一件に関しては、プレイ動画の投稿を岡本に教わり、昼姫は『Trade around the Star』のプレイ動画を実況するようになった。
「何、このコメント!画面が見づらい!」
動画をリアルタイムで投稿する事により、その動画にはコメントが右から左へ流れるように付随して来る事となった。
当初、昼姫はそのコメントで集中を欠いて成績を落とすものの、次第に慣れて来て、決勝戦には負けたとはいえ、トップ30に入った事で顔も知られてしまった。
なので、ゲーマーの男性からは応援コメントが多く、一部のコアな女性ゲーマーからは嫉妬を買って心無い言葉を投げ掛けられるものの、昼姫は次第にソレに慣れて来た。
慣れと云うのは恐ろしいものだ。
昼姫は、国内の『Trade around the Star』の大会にて経験を積み、顔と名を知られるようになっていった。
そして、全パターンの惑星タイプを経験する事によって、昼姫もまた、恐ろしいモンスタープレイヤーと化すのであった。