モスクワ大震災

第46話 モスクワ大震災

「紗斗里さん。あんな約束して、大丈夫?」

 隼那と恭次が帰った後、疾刀は紗斗里にそう尋ねた。

「大丈夫。サイコソフト『Earthwormアースワーム』のアイディアはありましたからね。

 いつから露は、自国内、それも首都で大規模な地震は起こらないだなんて勘違いをしたのでしょうかねぇ?

 日本に対して喧嘩を売ろうとする行為をとがめるには、その位はしなければならないでしょう。

 蓄積した地盤の歪みの強さは、十分。いつ大震災を迎えてもおかしくないですが、ソレのタイミングを僕が『Earthworm』でコントロールするだけです。

 まぁ、露による北海道侵攻の情報が入り次第、起こしてしまう事としましょうか」

「もしもその前に大震災に見舞われ、ソレを口実に露が北海道侵攻をして来たら……?」

「その場合、露は対宇と対日本の二正面作戦を取らざるを得ないでしょう。

 奪った土地の権利の保障を条件に宇と和解するなんて、宇をあなどるのもいい加減にしなければ、彼らは和解なんて可能性には導かれない!」

「そうだね。『戦争』なんて云う愚かな行為は、領土を勝ち取るなんて事があってはならないね。今の時代には。

 特に、北海道に関しては、露が奪う理由としては、幾つか思い付くけれど、北海道を大きな震災から護っている少々強過ぎる『柱』を殺す為と云う可能性がある。

 当然、そんな強力な『柱』を殺せば、北海道は大震災に見舞われる。

 ソコから復興を目指すよりは、露の未開発地域を開発した方がローリスクで着実な手なんだけど……。

 露の『大統領』として、娘が好きな日本の領土をプレゼントしたいと云う最悪な理由もありそうだし。

 当然、露大統領の娘は、その事実に気付いたら、父親をショック死しそうな位に嫌悪するだろうね。

 どうせなら、娘さんに日本へのビザ無し渡航の権利を与えれば、そっちの方が最高のプレゼントだと思うんだけど。

 日本としては、SP位までは同行する権利を渡しても、北海道を奪われるよりは、遥かにマシなのだし。

 何でそんな簡単な事に気付かないかなぁ……。

 日本としても、そんな素敵なプレゼントを贈る程度の決断なんて、相談して貰えれば簡単に下せると思うのに。

 そもそもが、『日本が好き』と思って貰う事が、既に名誉であるのだから、『国賓こくひん』として迎える事は、尚更名誉なのではないかなぁ?」

「多分、首相が暗殺された国の治安を信じられないのだと思うよ。

 あの事件は、日本が如何に平和ボケしていたのかを象徴するような事件だったと思うよ」

「何にせよ、日本は世界を代表する平和な国の見本であって欲しいものだねぇ」

「米国の策略によって、治安のレベルが下がってしまったのが、非常に悔しいよ。

 縁起の良さを強くする為に、ワザと縁起の悪い切り札を作るとか、趣味が悪いにしても限度があるよ」

「米国は『疫病神』だよ」

 疾刀は、断言した。

「中東の戦争だって、米国が味方した勢力が、『米国が許可したのだから何をやってもゆるされるのだろう』とか勘違いをした者たちと。

 米国が肩を持たなかった国が『ソコまで徹底的にコチラを排除するならば』と、武力蜂起したのがそもそもの原因だろうし。

 米国は一時期、『世界の警察』たるべく、様々な判断の基準を定めたけれど、ソレによって不利になってしまった側の感情を理解しなさ過ぎた。

 今は、そこまでの力の差があるでもなく、大統領選挙だってまともではない者が候補に挙がっている内は、今や『世界の疫病神』だよ。

 でも、『神付くのは良くない』と云う説もあるし、今の時代、『間違った神格化』をした人が増えつつある。

 露首相だって、『疫病神』と言えるかも知れない。

 ――誰も有難からないよ、そんな間違った『神格化』。

 まぁ、支持率は低下しているみたいだし、無理矢理な『大統領権限』での強権発動で、来期の大統領選挙を無視して『大統領』の地位を守った場合。

 起こるよ、第二の『天安門事件』。恐らくは、暴動を起こした民衆を軍事力で黙らせる。

 中は他国への侵略戦争を仕掛けなかったから軍事力で黙らせられたけど、露は違う。恐らく、腹心と思っていた者の裏切りに遭い、暗殺される。

 まるで、織田 信長が明智 光秀に裏切られ、殺されたように。

 やはり、歴史は繰り返すんだ」

「そもそもが、露が日本、特に北海道を狙っていると云う情報だって、虚報きょほうだったかも知れないんだ。

 その場合、既に露内に今の大統領を討つべく動いている勢力がある。

 下手に大統領で在り続けた場合、その寿命は大きく縮むね!」

「そもそもが、もうそろそろいつ亡くなってもおかしくない年齢なんだ。

 例え影武者であったとしても、年齢的な問題で急死する可能性は既にいつ起こってもおかしくはない。

 次の大統領が、真に優れた平和主義者の大統領であることを願うよ」

 そこまで話したところで、二人は会話にひと段落着いたことを悟り、研究室へと戻って行くのであった。