第53話 プロポーズ
昼姫は『TatS』を『共存共栄のゲーム』と云う『プリさん』の言葉を訊いて、得点力がそれ以前と段違いになった。
それこそ、『Kichiku』や『Victory』の世界ランキングを脅かす位には。
しかし、そんな折、卯月から驚きの言葉を掛けられた。
タイミングは、老師・岡本道場から帰宅する道の途中だった。
「──昼姫さん。お話があります」
卯月さんが、神妙な面持ちで昼姫の前に立ち塞がり、その歩みを止めた。
「スポンサーから、十分な収入を得ています。貯金も、然程ではありませんが、ある程度貯えました。
今度こそ、絶好のタイミングだと思いました。
──結婚して下さい!」
卯月さんは懐から化粧箱に入った指輪を差し出し、跪いた。
「ええっ!?
今ですか?!
それは──予想していなかったと云うか……」
だけど、卯月さんの表情は真剣だった。
「……本当に、私でいいんですか?」
「ええ。障がいを抱えているとか、そう云う事も含めて、貴女が好きです!
どうか、受け取って下さい!」
昼姫は少し考え込んだ後。
「……ちょっと、人に聴かれたくない話があるので、──カラオケにでも、行きませんか?」
「……?ええ。構いませんけれど、一度、コレは仕舞った方が良いですか?」
「ええ。後ほど、気持ちが変わらなければ、──再度、差し出していただければと」
アタシには判る。遂にあの話をするのね。それも含めて受け入れて貰えないと、困るものね。
そうして二人は、カラオケ屋さんに行って、一部屋借りて、ドリンクが届くのを待った。
妙な緊張感が張り詰め、二人は何となく視線を逸らせる。
やがてドリンクが届き、炭酸水を飲みながら、昼姫は卯月さんの方を向いてこう言った。
「あの!私──魔王としてこの世に転生させられたんです!」
卯月さんは、昼姫と目を合わせて、一瞬キョトンとしたけれど、すぐに笑い飛ばした。
「それは、僕もだよ。転生と云う訳では無いけれど、『七つの大罪』と向き合わされた時、僕は『全て受け止める!』……って意気込んだけど、幾つかはダメだった」
そう言って、卯月さんはウーロン茶を一口飲む。
「──で?話はそれだけ?」
「え?は、はい……。こんなにあっさりと受け入れられるとは思っていなかったから、何だか拍子抜けです」
「じゃあ……一曲歌ってから、プロポーズのやり直しかな?」
「──!はい!お願いします!」
そう言って、卯月さんは一曲予約して歌い、昼姫の心がメロメロになったところで。
「と云う訳で、昼姫さん。改めてお願いします。
僕と、結婚して下さい」
卯月さんは、懐に仕舞い込んでいた指輪を取り出し、昼姫に突き付ける。
「もう、卯月さんはズルいです!
あんなに熱烈なラブソングを歌った後で、プロポーズなんて断れないです」
そう言って、昼姫は左手を突き出して、薬指に指輪を嵌めて貰い。
「こちらこそ、よろしくお願いします。
一生、幸せにして下さい」
そうして二人は、ソフトタッチの口づけを交わし、カラオケ屋を出て、手を繋いで卯月さんに家までついて来て貰い、両親に結婚の報告をするのだった。