第45話 プレイング考察
『TatS』の各国のアカウントは、一ヵ国につき10名に改められた。
サーバーの処理の限界を理由に。
因みに、日本人のアカウント数に制限は無い。
故に、各国で『TatS』のアカウントの権利の売買が行われた。
一件につき、日本円にして1億円だと云うのだから、最貧国と呼ばれる国は喜んで売却した。
問題は、日本人に依るアカウントの売却が、メーカーの定めるルールとして禁止された事だ。
無論、違法に売却しようとした日本人や、購入しようとした富裕国とがある。
ソレは、即座に『垢BAN』されたが、他国間の売買にまでは、メーカーも処罰を下さなかった。
何故ならば、本当の最貧国にとっては、1億円と云うのは、大きな収入源だからだ。それが、10件もある。全部売れれば10億円だ。
ソレを、更にもっと高額で引き取ろうとした国も現れた。日本と云う懐刀を快く思っていない、露中朝の三ヵ国である。
故に、円安が進んだ。ただ、一件100億に届いた時、メーカーは『やり過ぎ』と云う事で『垢BAN』と云う決断を下した。
そして、上限を『10億円』又は『一千万米ドル』の安い方と云うルールを定めた。
すると、中小国が上限での売却と云う行動に出た。
購入したのは、主に中露である。朝は、経済的余裕が無いが故に、上限での購入に踏み切れなかった。それを、中露に責められもした。
よりにもよって、『軍事費の縮小』によるアカウントの購入を申し出られた事から、朝は強烈に反発した。
そして、アカウントを中露に売る事で、朝は『軍事費』にその代金を割り当てた。
一方、日本では。──否、老師・岡本道場では。
「スゲー暴挙に出て来たな、中露。
そこまでして、日本に呑ませたい条件の案件があるって事か」
『Kichiku』はそう語る。
「韓でも同様の動きが見られるらしいぜ?
しかし、朝はどうしても軍事力で無理矢理要求を通したいのかね?
平和的な解決に動かないと、あの首相、死ぬぞ?」
『Victory』の意見も厳しいものだ。
「『プリさん』、俺、『Victory』、『Morning』さん、『Fujiko』さん……。
ベスト5は独占出来るな!
でも、『Morning』さんは対象候補の潰し方までは……知らなくて良いか。
手を汚す役目は、俺たちが背負えばいい」
「尤もだ。まぁ、『プリさん』や『Venues』さんは、自主的に手を汚しているから、それを止め迄はしないが」
『Kichiku』と『Victory』との間でそんな意見の合致を見せた時、『プリさん』が言った。
「私はただ、頂点に君臨する為だけにプレイしているだけよ」
それに対し、『Venues』も同調した。
「私も、国外で最も厄介な、『King』を蹴落とす為だけにプレイしているだけよ?」
それに対して、卯月が発言を繋げる。
「僕は、楽しみながら上位を常に狙っているだけですねぇ……。
蹴落とすとかはどうでも良くて。ただ、自分に稼げる最高得点を目指しています」
「私もそうです!」
そして、昼姫が追従した。
更に、老師・岡本が言う。
「儂は、皆の危なげなところをフォローしつつ、上位を目指しているのみぢゃ」
その発言に、『プリさん』がギョッとした。
「老師。私のプレイングも、危なげなところがありますか?」
「『Primula』は少ない方ぢゃのう……。
偶に、大ポカをやらかしそうな場面を見付けては、フォローに走るが、大抵は君のプレイングはキチンと軌道修正してフォローの必要が無くなっておる。
本当にフォローする事は、10ゲームに1度、あるか無いか。ぢゃから、余り気にする事は無い」
ホッホッホと、好々爺然として笑い飛ばす老師・岡本。
「す……少し慢心していたようです。
今後は改めます」
「『Primula』は真面目ぢゃのう……。
まぁ、未だ完璧など無いと知らぬだけぢゃと思うがのぅ……」
「──老師は、自らのプレイングで反省点はありますか?」
『プリさん』は、自らの『甘さ』に、少々神経質になったようで、老師・岡本に問い質した。
「まぁ、『手を抜き過ぎた』とは思う事はあるが、ワザとそうしているのだから、儂は既に単なる指導者役ぢゃよ」
そう云い、再びホッホッホと嗤う。
そこで、昼姫が質問を飛ばした。
「皆さん、このゲームの楽しさって、どう感じていますか?
私は、『数字がモノを言っている』ような感覚が楽しくてやっているんですけれど」
「皆、そんなもンじゃねぇの?
未覚醒者がこんな高順位を保っていられるような甘いゲームじゃないだろう?」
『Victory』の言葉に、皆が頷く。
「まぁ、俺は『糞尿』が高いレートで引き取られていく事に快感を感じる、一種の『変態』である自覚はあるがな!」
流石は『Kichiku』。皆、「ソレは無いわぁ……」的な反応を示す。
「『Kichiku』君。君は『糞尿』のトレードのし過ぎで順位が沈む傾向があるから、気を付けるのぢゃよ?」
「へっ?!そうなの!?」
「あー、だから俺の方が勝率が高いんだ」
『Victory』がその事実に気付く。勝率は、『Victory』の方が僅かに高い。ただ、得点差によって、世界ランキングは『Kichiku』の方が上だ。
「おまっ、気付いているなら教えろよ!
俺、世界ランキングで勝ってるから、勝率で負けてるなんて、気付かなかった……気付こうとする努力の欠如が原因か。
キーッ、悔しいザマス!」
この道場の、こう云う下らないやり取りが楽しい。等と昼姫は思っているみたい。
「老師。私にアドバイスなんて、ありますか?」
昼姫もこれを際に訊いてみようとした。老師・岡本の返答は──
「ウム、初心者にしては十分出来ているし、操作も抜群に早い。強いて言えば、他のプレイヤーを蹴落とすのを遠慮しがちな気がするが、ソレはソレで気持ちが良いから大丈夫ぢゃ」
つまりは、地道に経験値を溜めて、レベルアップしなさい、って事よね?昼姫は気付いているかしら?流石に気付いているわよね?
「僕はエンジョイ派だから、今の成績で満足だなぁ……」
「そう云う『Fujiko』君のプレイングは、偶に『エグい』」
「あー、それ、俺も思った!」
「俺も!何度『エッグい』って言いそうになったか……」
それに対し、女性陣は「何言っているの!?」的な視線を三人に向ける。昼姫は……気付いていないわね。良いわよ。貴女の場合、気付かない方が。
「ガチのプレイングしたら、エグくなるのは当然じゃない!」
『プリさん』はそう言う。……当然なのかしら?
「ただ只管、利幅の大きいトレードをする。私が心掛けていて、『Kichiku』と『Victory』に足りないのは、ただその一点よ。
まぁ、他のプレイヤーを妨害してくれているから、比較的楽に1位の座に就けている側面はあるけれども」
「『プリさん』がお互いに利幅の大きいトレードをしてくれている事で、俺たちも上位に就けている側面もありますよ」
『Kichiku』がそう言い、『Victory』が頷いている。
つまりは大きな差があるのは、ゲーム内の各惑星系における、価値観とそのトレードの優位性の情報量を、『プリさん』は持っている。昼姫はそれを持っていないのね~。
等と考えながら、アタシは昼姫の中で訊いていたのでした。