フルタンク

第34話 フルタンク

 緒戦から優勝候補との戦いとは、随分と籤運くじうんがツイていないものだ。
 
 まぁ、ジャンヌ・ダルクが味方になっている今、どんな相手にも負ける気はしないのだが……。
 
「うげぇっ!」

 それでも、やはり五体ものタンクタイプが並んでいる、フルタンクというチームを見るのは、嫌な光景だ。
 
 見るだけでうんざりとしてしまう。
 
 作戦は特に考えていない。
 
 とりあえず、それぞれが一人ずつ倒せば勝てるだろうと話してはいたが、緒戦の相手がこんなのだとは思ってもみなかった。
 
 少なくとも圭と真次は勝てないだろう。
 
 俺とケントと降籏さんとで、最後に二人倒せばいい。
 
 但し、相手がそんな戦い方に乗ってくれればの話だ。
 
 昨年の優勝チームであるということは、しっかりとした戦術を考えてある可能性が高い。
 
 ……しかし、多いんだろうか、フルタンク……?
 
「苦戦しそうだな」

 半分、強がりである。
 
 負けそうなどという言葉を口にしてしまったら、まだ1回戦だというのに、本当に負けてしまいそうな気がする。
 
 大会開始前の解放時間で、わざわざ必殺技を隠しながら戦っていたというのに、こんなに早く負けてしまってはしゃくに障る。
 
 逆にそれなりに良い勝ち方をすれば、勢いもつくというものだ。
 
 下手をすれば俺の一生に関わりかねないだけに、そういう小さなことにも気を付けておきたいところだ。
 
『READY?』

「……おや?」

 開始準備の合図が聞こえた途端、俺は異変に気が付いた。
 
 敵が、もう動いている。
 
 敵だけではない。俺以外の全員が、攻撃はしていないものの、移動を始めていた。
 
「……動けるのか?」

 試しに一歩。
 
 ……進めた。
 
「聞いてないぞ、こんなこと!」

 敵は既に、かなり遠くで密集した陣形を組んでいた。
 
 味方の四人も、それを取り囲むおうにして位置取りを終えている。
 
 後れを取ってしまったが、俺も移動を始める。
 
 あらかじめ、ルールをしっかり聞いておくべきだったと、今さらながら後悔する。
 
 これが致命的な遅れにならなければ良いのだが……。
 
 後退を続けていた相手チームが、陣形を崩さぬまま、俺から見て左へと移動方向を変える。
 
 降籏さんの居る方だ。
 
 ……ひょっとして彼女、こういう戦いには向いていないんじゃないだろうか?
 
 正面の敵に対しては圧倒的な強さを誇る彼女も、背後から攻撃を受ければ、下手をすれば2撃か3撃で倒されてしまいかねない。
 
 まさか、それが目的で彼女を最初のターゲットに定めたのだろうか?
 
 ……援護しよう。
 
 幸い、俺には武器が二つある。
 
 防御力もそれなりに高い。
 
 いざとなれば、どの方向からの攻撃にも対処出来るガード必殺がある。
 
 俺が彼女の背後を守れば、おそらく二人だけでも十分に戦えるだけの強さを発揮出来る筈だ。
 
 普段ならとうに聞こえている筈の開始の合図は、未だ行われない。そのお陰か、かなりの好位置にまで詰める事が出来た。
 
 そして、準備の合図が聞こえてから5秒ほどが経過した時。
 
『FIGHT!』

 ようやくその声が聞こえた。そしてそれとほぼ同時に。
 
『ホーリー・クロス!』『プロテクター!』『……』

 幾つも重なって聞こえてくる、ガード必殺を展開する声。
 
 敵の陣形は、ガード必殺を展開した三人が、二人を取り囲むような形になっている。
 
 移動を続けながらも、その陣形はほとんど揺らぐ事が無い。
 
 恐らくは、ガード必殺を獲得した事で考案された陣形だろう。
 
 俺たちを相手に試している。その陣形を見た俺の感想は、そんなものだ。
 
 俺たちも随分とめられたものだ。
 
 昨年はどんな戦法で優勝したのか知らないが、今年もそれを使うべきだったのではないのか?
 
 そうしなかったのは、恐らくはしっかりと考えられた上での戦略だろう。
 
 だが、相手を見て考え直すべきだったのだ。
 
 その失敗の代償は、敗北という形で支払って貰う事としよう。
 
 それも、一回戦負けという、最悪の形で。
 
『フェアリー・ステップ!』

 彼女の動きが加速した。半端な動きでは、後を追えない。全力で走れば追い付く自信はあるが、こんな試合でその足を使いたくは無い。
 
 万一、疲労が後の試合に響くことにでもなったら、目も当てられない。ここは敵の注意を引き付ける事で援護しよう。
 
 パァン!
 
 一度の銃声が、三人のキャラクターに突き刺さる。
 
 注意を引くには、ショットガンは最適の武器だった。5人ともが俺に注意を向けて、そのうち三人が警戒して、俺に向かってガード姿勢を取った。
 
『ティンクル・レイピア!』

 六つの巨大な刃が、五人全てを薙ぎ払う。
 
 中に居た二人の一方は、銃口を俺に向けたまま、モロに莫大なダメージを負ってしまっている。
 
 最悪、その一撃で体力の半分以上が失われている可能性がある。
 
 合計すれば、1キャラ分を削った可能性も、十分に有り得るということだ。
 
『うおりゃあ!』

 ベンケイが突撃する。
 
 止せと言いたいところだが、彼にはそれ以外に戦い方が無い上、特定の言葉以外は言っても聞こえる筈が無い。
 
 勇猛果敢ゆうもうかかんなその行動には、すさまじい報復ほうふくが待っていた。
 
『『『『『キャノン!』』』』』

 五人がほぼ同時に、ベンケイに向けて必殺技を放つ。
 
 ガードもしていなかったベンケイは倒れ、その鈍重な巨体で大地を揺らした。
 
 すぐに立ち上がりはしたものの、体力は残り少ないだろう。
 
 その背後から……。
 
玄武げんぶ!』

 シズカが必殺技を使う声。そして――