フライト・レース

第39話 フライト・レース

「で?アイオロスさん。レースには自信はあるのかい?」

「ぶっちぎりで、何の面白みも無いレースを展開して見せますよ」

「なら、アンタに賭けてみるか」

「……賭博とばくまでしているんですか、このレース?」

「じゃなけりゃ、盛り上がらねェだろう。

 残念ながら、アンタは名が知られているから、倍率は低いだろうがね」
 
「フライトアーマーの事は、そんなに言いふらしたりしていないんで、そうとも限りませんよ」

 聞いてすぐ、トールは怒鳴り散らした。
 
「馬鹿野郎!

 『風の英雄』アイオロスがフライトの魔法を使えるなんて事が知れたら、エンジェルをも凌駕りょうがする、すさまじいスピードのフライトを使えると思い込まれるのが、どう考えても当然じゃねェか!」
 
「あ、そう云うものですか」

「ああ、そう云うものなんだ。世間の評判ってものは」

 一字一字、区切るように強調してトールは言った。
 
「でも、倍率が2倍以上になる程度の人数は参加されているのでしょう?」

 興味があるのか、クィーリーも話に加わって来た。
 
「じゃねェかな?8年間、恒例になっているんなら」

「しかし……。例年、これだけの人が集まっているのなら、エンジェルの格好の的になってもおかしくないと思うんですけどねぇ」

「エンジェルが、その事を知っていれば、な。

 知る筈ねェだろう、ンなこと」
 
「感知する能力位、あるでしょう。あれだけの破壊と殺戮さつりくを行ったのですから」

「その割には、残っている街も多いだろう。

 第一、最近はそんなことも起きていないらしいじゃねェか」
 
「そうなんですけどねぇ……」

 そう、実は最近の情勢は、人間にとって、悪くない。エンジェルも最近は、すっかり鳴りを潜めていたりした。
 
「で?レースへの出場は申し込んだのか?」

「ええ、とっくに。主催しているのは、ココらしいですからね。つまり、このパンデモニウムが。

 盾を提供してくれると云うあの人を初めとした人たちが、スポンサーらしいですよ」
 
「でしょうね」

 ちゃっかりしているゼと言ってから、トールは親指で出口を指した。
 
「じゃ、ちょっくら俺ァ、レースの情報を仕入れて来る。

 アンタ以上の有名人が出ている可能性もあるからな」
 
「フライト・アーマーを持っている人が相手で無い限り、スタートの早さで負けませんから、僕に賭けてくれれば確実ですよ」

 トールを見送ると、何故かクィーリーが目を輝かせて立っていた。
 
「アイオロス様。私も、賭けに参加して良いですか?」

「構わないよ。

 そうだね、資金をあげよう。
 
 この延べ棒一本を使うと良い。
 
 僕はちょっと、休ませて貰うから」
 
「じゃあ、行って来まーす」

 アイオロスは、この時、自分の勝ちを信じて疑わなかった。二人が、レースの情報を仕入れて帰って来るまでは。