第30話 フェイク
パァン……ッ!
響く銃声。
「痛いっ!」
上がる悲鳴。
弾丸は、詩織の肩を貫いた。
「マダ、殺シハセヌ」
人間とは、微妙に違う発音。
「君ガ、我ラノ仲間ニナルトイウノナラバ……」
「ゆぅーるぅーさぁ~~~~ん!」
怒り狂った狼牙は、手刀を龍青に突き出した。その先端には、目には見えぬナイフ。
それは、龍青の胸、鱗を切り裂き、指の先端が食い込む。それを引き抜くと、流れる青い血。
だが、噴き出しはしない。
「……!」
「ソコニ、心臓ガアルト思ッタカネ?」
龍青は、左手で狼牙の顔を掴んだ。
「ぐっ……!」
狼牙の口から、苦痛の声が洩れた。
自分の顔を掴む手を、左手では引き剥がそうとし、右手ではその手首を見えないナイフで切り裂こうとした。
「コノ、見エヌないふハ厄介ダナ」
龍青は右手で狼牙の右手首を掴み、手首を切り裂かれるのを防いだ。
「ナカナカノちからダ。是非トモ、仲間ニナッテ欲シカッタノダガ……」
龍青は、狼牙の体を持ち上げる。右手一本で。
「敵トナルナラバ、仕方アルマイ。殺シテオコウ」
右手で取り出した銃の銃口が、狼牙の胸の中央に押し当てられた。
「……マダ、喋レルナ?
服従スルナラ、今ノウチダガ?」
「……誰が……服従など……」
「君ノ次ハ、彼女ダガ?」
「……!」
「ドウダネ?気持チハ変ワッタカネ?」
狼牙の右手が動いた。銃を、掴んだのだ。
「全弾、撃ち尽くせ。それで、僕を殺せると思うのならな」
「……ソウサセテモラオウ」
銃声が、何度か響いた。リボルバーではない為、残弾数は狼牙には分からない。
「……オヤ。弾切レノヨウダナ」
ふぅ……っと、狼牙が安心し、手の力を少し抜いた直後だった。
「……ふぇいく、ダヨ」
銃口は詩織に向けられて、火を噴いた。
「あうっ!」
「コレデ、本当ノ弾切レダ。
安心シタマエ、彼女ガ死ヌマデハ、君ガ死ヌマデト同ジグライノ時間ガカカルヨ。
一緒ニアノ世ヘ行ッテ、死後ノ世界デ永遠ニ結バレタマエ」
「……冗談……では……ない……!
詩織は、天国へ、行く。僕は、地獄へ、行く。この世でしか、僕らは結ばれないんだ、よ!」
両手が、龍青の左手首を握った。
力を込めるが、握り潰そうとしているのは見せかけ。本来の目的は――エナジー・ドレイン!!