第51話 ピースサイン
一方、式城 紗斗里の方は。
「うーん……。『セレスティアル・ヴィジタント』の裏に見える、サイコソフトメーカーが気になるね」
式城 総司郎と、そう話し合っていた。
「対策は打てない?」
「僕が思い付いて商品化する度に、類似商品を作られている。
コレは、この先、どんなサイコソフトをどのようなセキュリティを設けて作成するかが課題になるね」
「私が新しいサイコソフトを作ってみようか?」
「――どんなサイコソフト?」
「ソレが思い付かないから困っている」
紗斗里が、チラッと思い付いたことを、口にしてみようかと考えた。
「『核兵器』による被害を防ぐサイコソフト、なんてどうかなぁ?」
「それは中々難しいねぇ。
勿論、『黒い雨』をも防ぐ形で、と云う事でしょう?」
「難しい、かなぁ……」
紗斗里は思考を走らせて、ちょっと検討してみる。
「――うん。『核兵器の発射を失敗させるバグ』。
コレならイケそうだよ?」
「成る程ね。――うん、うん。
世界から全ての虫を駆除しない限り、そのバグはデバックしても蘇るようにすればいい。
そして、もしも世界中から全ての虫が駆除された場合、生態系が狂って、人類は破滅の危機を迎える。
つまり、核兵器の発射が成功した瞬間、人類が破滅する事が確定する」
「プログラミング出来る?
僕の方でも検討しておくけれど」
「恐らく大丈夫じゃないかなぁ?
つまり露は、『世界を滅ぼさせるかも知れませんよ』と宣言したに等しい、と云う事だね」
「露首相は、『全てをパーにしたい』と考えている、と見做せる。
そして、『ピースサイン』はジャンケンの『チョキ』。『パー』に勝てる。
そう云う事で成り立った、原始的なゲームなのかも知れないね。
中々奥深いね、ジャンケン」
その時、紗斗里の――正確には楓の――ハスマホ(ハイパースマホ)が鳴った。
「はい、どちら様でしょう?」
『あ、紗斗里ちゃんだった?丁度良かった。
近い内に会いたいんだけど、そのアポイントを取ろうと思って。
スケジュール、開けられない?』
「『エルサレム』に居るの?
今からでも会いに行けるけど。
急用?」
『急用でも無いけど、近い内に会いたいの。
来て貰えるなら、ありがたいわ。
用件は、『セレスティアル・ヴィジタント』について。
――で、今すぐ来れるの?
助かるわぁ』
「判った。30分以内には着くようにする。
少々お待ち願います」
『待ってるわ。じゃあ、切るね』
電話が切れて、紗斗里はハスマホを仕舞う。
「ちょっと、『エルサレム』まで行ってくる。
今、大事な作業は無かったよね?」
「僕も行くよ。
急ぎの案件は無かった筈。
30分以内と言っていたね。僕は疾刀に戻ろう。
じゃあ、テレポート、よろしく」
そう言うと、総司郎は椅子に座ってリラックスし――後頭部に繋がっていたコードを引き抜いた。
「さぁて。僕が一緒に行くよ、紗斗里ちゃん。
行こう!」
「うん」
そうして、紗斗里はスムーズに疾刀をテレポートし、自身も続く。後頭部のコードを、コンピューターに繋がっている方から、来ているパーカーに付属のものに変えて。
「やあ」
気楽な様子で挨拶する紗斗里だったが、事態はそう軽い事態ではない様子であった。