第59話 ヒーラー
「最悪の事態だけは避けられた」
恭次が、入手した資料を見てそう言った。
「23個、全て『クルセイダー』内部に売却されていた!」
「あら。じゃあ、入手した国の『クルセイダー』と、交渉が必要ね」
「無茶言うな、隼那。
そもそも、ルールなんざ知った事か、グッドであれば良いと考えている連中だぜ?
独善的に行動する事は、目に見えている」
「まぁ、それでも他のキラーチームの手に渡らなかっただけでも、朗報だったわ」
「違いねぇ」
そもそもが、療一人への負担が大き過ぎた。治も活躍しているものの、療と比べれば、幾分か能力が低い。
「療君の遺伝子を引き継いだ子が、期待したいけど、未だ幼過ぎるわよねぇ。
せめて中学生ぐらいになって、ソケットを埋め込む手術もして、『Swan』に適性があるなら、相当期待出来るんだけど」
「しっかし、涼ちゃんもよく子供を産んだよな。トラウマだってあっただろうに」
「ソコは、アレじゃないの?療君がメンタルまで治療した、とか……」
「療君、大活躍だよな!俺らの経済面に至るまで」
実際問題、療は『Swan』の買い取りが出来るだけの稼ぎを挙げていた。しかし、療は『クルセイダー』との契約の継続を希望した。
涼も『Swan』の適性があり、一時は共働きだった。
だが、二人の子供が産まれる事によって、涼は家事に専念する事にした。
イザとなれば、適性者さえ見つかれば、涼に預けた『Swan』を返却して貰い、他の使い手に稼がせる手もある。
療は、一人で稼ぐ為に奮闘した上、家計を支えながらも、涼に家事を任せる事への対価も支払っていた。
ソレは、勿論余裕があるからこそ出来る事だが、涼がその気になれば、その位は稼げている筈のところを考えての支払いだった。
最近は、子供に手が掛からなくなってきた事もあって、涼も時々、治療行為に及んでいる。
但し、療は涼の『Swan』については買い取りを行い、療の手の及ばない治療を、涼が担っていたりする。
ただ、適性に応じて『Swan』を配布した結果、その数は東京都が最も多く、28人。正直、手を回せない事態になっている筈だ。
札幌は療と涼と、『九頭竜 時』という女性の三人が主力で、特に療は忙し過ぎるが故に、テレポーターに手数料を渡して送迎をお願いしている。
療の担当は難病や重病、致命傷の患者の救急の依頼も多く、慣れた病院は、『奇跡の生還』を見慣れている程だ。
次いで、時の腕が紗斗里曰く、『レベル9相当』と言われる程で、理論上の上限値まで、キッチリ能力を引き出せている。――『Swan』に限り。
涼は『レベル7相当』だが、そもそも、最低でも『レベル6』の能力が無ければ、『Swan』は使えないのであり、ただ、療と時とは能力に違いがあった。
涼の特殊能力は、『特殊型サイコソフトの並行使用』の才能が有り、コレは療も時も及ばない能力だった。
と云うか、それが故に『レベル7相当』なのだ。
もしも戦争やキラーチームの闘争が起こった場合、三人の存在は心強いものとなる。
療に至っては、『Phoenix』の行使の練習や訓練も行っており、その才能は既に見出されている。
よって、部位欠損の治療や、死後間もない者の治療にも活躍が期待されており、既に試験的に何度か実践し、成功を収めている。
療の活躍は、今後、大いに期待されていた。それこそ、代わる者が居ない程に。
そして、お互いの忙しさ故に未だ実行されていないが、紗斗里による、療への『Phoenix』の最適化が計画されているが、ソレが何時になるのかは、誰も知らなかった。