ハッピーエンド

第44話 ハッピーエンド

「ノトスさん!」

 アースの顔を見て、ムーン=ノトスは回れ右をした。
 
「ちょっと!どうして逃げるんですか!」

「君とは顔を合わせないように言われていてね!」

「誰からですか!せめて説明して下さい!」

 ノトスは扉から外に出ると、右折してすぐに転移した。――研究室内に。
 
 研究室には鍵が掛かっている。万一、居場所が割れたとしても、黙っていれば気付かれない。
 
 本来、転移はとてもリスクのある魔法なのだが、ノトスは研究室内のある一か所であれば、安全に転移出来るようにしていた。
 
「フゥーッ……」

 本来、ムーン=ノトス=ロイヤルは、アース=デュークとは、婚約者同士なのだ。だから、会っても問題無いとはノトスは思うのだが、王命とあっては、逆らう訳にはいかない。
 
 そもそもが、アースがノトスに対する『甘え』を無くす為の王命なのだが、ノトスはソレを知らない。
 
 学園さえ卒業してしまえば、すぐにでも結婚してしまう間柄なのだ。
 
 成績優秀であることは、ノトスも調べるまでもなく噂で伝え聞いていた。
 
 最早、卒論を仕上げるのみ。
 
 彼女が何をテーマにするのかは知らないが、そもそもが論文なのだ。そんなに簡単に仕上がるものではない。
 
 『αシステム』に関して言えば、不明な点が多々あり、卒論が新発見の論文となる可能性も有る。
 
 事実、アースは『αシステム』による、『二酸化炭素の炭素と酸素への還元』と云うテーマを掲げていた。
 
 この論文が完成し、その論文から実用化に至った場合、地球温暖化の抑止力として、とても大きなテーマであり、尚且つ、炭素と云う、地球温暖化の原因となり得るとしても、その燃焼によってエネルギーが得られる手段として有効だ。
 
 『気温』と云うエネルギーから『二酸化炭素の還元』と云う現象が起き得れば、ソレは即ちSDGsに繋がる。
 
 シンプルながら、『αシステム』の存在無くしての実現が不可能であった為、アースはソコに着眼点を置いた。
 
 これまで、その課題に挑んだ者が居ない訳では無かった。
 
 だが、実現可能なレベルまで論文化を行いつつあるのは、未だアースだけである。
 
 伊達に、『地球アース』の名を背負ってはいない。彼女は将来、不可能な事が無くなる。
 
 但し、『地球』の寿命が訪れれば、共に亡くなる。
 
 だから、その為の地球の救命措置として、地球温暖化の問題に取り組んだ。
 
 結果が、『二酸化炭素の還元』という課題である。
 
 その実現化を果たした時、人類は途方もないエネルギーを得られる。
 
 ――いや、扱うのは人類では無くなっている可能性も存在するが。
 
 ノトスは未だ知らないが、アースは途轍とてつもない論文に取り組もうとしているのだ。
 
 だが、王命が解かれない限り、ノトスはアースを避ける。
 
 例え、アースの卒論にノトスが手伝えばあっさりと解決してしまうとしても。
 
 そこは、アースの努力目標だ。
 
 ノトスはそこに、一言も口を挟む気は無い。
 
 ただ、さっさとアースが卒業してくれれば良いなとだけ思っていた。
 
 ノトスとて男だ。美人の女の子には当然興味はある。――王命さえ無ければ。
 
 
 そんな折、アースは卒論を完成させた。
 
 それを確認した王家は、ノトスに手紙を出した。
 
 ノトスは、王家の家紋が封蝋に刻まれている手紙に、来るべき時が来たことを知る。
 
 内容は、『アースは事実上の卒業扱いとし、ムーンは彼女を婚約者として迎えること』とあった。
 
 ムーンはアースを呼び出し、その手紙を見せた。
 
「で、だ。

 君は、私の婚約者として迎えられる事を望んでいるかどうかの意思確認をしたかった訳だが――」
 
「勿論、否やがある訳もありません!」

 アースは快諾した。
 
 二人はその後、結婚式を盛大に行って結婚し、そして、幸せに暮らしたのだった。