ネットを組む

第19話 ネットを組む

「今日は本格的なテレパシーの訓練から始めましょ、楓ちゃん」

 翌日、約束通りに楓の電話で二人は公園に集まり、超能力の訓練を始めるに当たって、香霧は笑顔でそんなことを言い出した。
 
「僕、ドラゴンの訓練から始めたい」

「駄目!あれは危険すぎる!」

 口を尖らす楓と、香霧は強い意志を内に秘めた瞳で睨み合った。
 
「でも、デュ・ラ・ハーンの使い手と戦う事になったら……」

「楓ちゃんには、無敵のアンチサイがあるでしょ?」

「イージスの事?」

「ううん。全部含めて」

 楓のアンチサイのレベルがどの程度なのかを知らないのに、香霧はそう言った。
 
「でも、何でテレパシーなの?」

「電話代の節約の為。楓ちゃんから電話を貰った時、気付いたんだ」

 胸を張って、まるで「こんな細かい事にまで気が回る私って、偉いでしょ?」とでも言わんばかりの態度を、香霧は示した。
 
「どうすればいいの?」

「サイコワイヤーをお互いに繋いで、相手の心に呼び掛ければ良いの。

 私の場合、送信しか出来ないから、受信の方法は説明出来ないけど、楓ちゃんなら、ひょっとしたら送信も受信も一本のサイコワイヤーで出来ちゃったりしてね」
 
「やってみる」

 楓の身体から、一本のサイコワイヤーが伸びて、香霧の身体に繋がった。
 
 途端に流れ込む、香霧の心。それは、受信などというレベルでは無い。
 
 リードマインド。つまり、読心。
 
 あっという間に、香霧の知る全ての超能力の使い方を、楓は学び取った。
 
 そしてその途端、テレパシーがテレパシーの限界を超えた。
 
 香霧の心の中に、楓がイージスを学び取った時のメッセージが流れ込んだ。
 
 当然、読心をしている楓にも、そのメッセージは聞き取れた。――否、感じ取れた。
 
 メッセージは、言葉だけではなく、意味のやり取りだからだ。
 
『何という事だ……』

 それ以外に、楓はそんなメッセージを受け取った。
 
 デュ・ラ・ハーンの声ではない。もちろん、香霧の声でも無い。
 
『ネットを組んだ……。

 理論上は不可能ではないが、私のソフト『デュ・ラ・ハーン』では不完全だった筈だ。
 
 我々以外の人工知能に浸食された副作用か?』
 
『あなた、誰?』

 楓は心の中へ呼び掛けた。
 
『私?私は香霧よ。

 やだ、楓ちゃん。白昼夢でも見ているの?』
 
 返事は、的外れな香霧から返って来た。
 
 そうではない。楓、香霧、デュ・ラ・ハーン、その三つを除く第四の人格に、楓は問い掛けたのだ。
 
 その事を香霧に伝えると。
 
『そんな声、私には聞こえなかったよ?』

 との返事だった。
 
『まあ、デュ・ラ・ハーンからはメッセージが届いたけど。

 ほら、見て見て。
 
 私、楓ちゃんと同じく、イージスを使えるようになったんだよ』
 
『ちょっと、試して良い?』

 声で話せば良いものを、テレパシーを使う事に楽しみを覚えた二人は、会話をテレパシーで行った。
 
『いいよ。何するの?』

『テレパシーを使わなくても、香霧がイージスを使えるかどうか、試しにこのサイコワイヤーを外してみるだけ。

 ……良い?』
 
『OK』

 サイコワイヤーが消える。それと同時に、香霧が出していたイージスが、消え去った。
 
「あれ?どうして?どうして?

 イージス、消えちゃった!」
 
「やっぱり」

 キーワードは、『ネットを組む』。これについて、紗斗里と話し合う必要があるだろうと、楓は思った。
 
「さあ、楓ちゃん。次はESPの訓練をしようか」

「必要無い。さっきのテレパシーで、香霧の使える超能力は全て学習したから。

 あと、香霧には使えないけど、あるにはあるっていう超能力は無い?」
 
「うーん……」

 香霧は口を『へ』の字にして考え込んだ。
 
「私、レベルは低いけど、ほとんどの超能力は使えるしなぁ……。

 ……あ!あった、あった。
 
 電気や炎を操る超能力は、極限られた人にしか使えないけど、存在している事には存在しているらしいよ。
 
 けど、いくら楓ちゃんでも、そこまでは出来ないんじゃないかなぁ?」
 
「電気?」

 楓が胸の前に肩幅位の間隔で両手を向かい合わせて構えると、直後、その間に稲光が走った。
 
「炎?」

 次は胸の高さに右手の掌を上に向けて構えると、その上に炎が踊った。
 
「ついでに氷も」

 楓が風を撫でると、そこにだけ冷気が流れて、空気中の水分が凍って綺麗なダイヤモンド・ダスト現象が起こった。
 
「すっっっっごぉーい、楓ちゃん!

 楓ちゃんって、ひょっとして、超能力を扱う天才なんじゃない?」
 
「全部、ドラゴンを応用した、ドラゴンを使える人には簡単な超能力だよ。

 ……まぁ、ドラゴン自体が難しい超能力なのかも知れないけど」
 
「ねえ、どうやるの?どうやるの?

 やり方さえ教えて貰えれば、私にも出来るかも知れないよねぇ?」
 
 危険だから教えたくなかったのだが、楓は爛々とした香霧の眼光に負けて、説明し始めた。