第16話 ドラゴンを狩る威力
──学園祭最終日。
学園祭の中では、色んな種目の魔法の大会が開かれ、デッドリッグも参加して、魔法の派手さを競う大会では優勝を掻っ攫うも、最終日のこの日は、威力を競う。
バルテマーが優勝の最筆頭等と呼ばれるが、本来であれば、デッドリッグが勝つ筈であった。
だが、デッドリッグは、『晒しもの』とされる為に順番が最後であり、バルテマーが優勝の確約を得ようとしていた。
「──良し、誰も兄上を上回りはしなかったな!」
コレで、デッドリッグは狙い通りに動けることが、確定していた。
『最終出場者、試技を行って下さい』
的は用意されている。『禁呪』を使えば、威力を計る事も出来ずに的を破壊出来るのだが、『禁呪』は使わない事にこそ意義がある。
それでも、デッドリッグはバルテマーが叩き出した威力ポイント『1728Pt』を上回る魔法は使うつもりは無かった。
「『マジック・ミサイル』!」
ソレは、初歩の攻撃魔法。デッドリッグは、狙った通りに『1727Pt』を叩き出す事に成功した。
『惜しい!『1Pt』及ばず!』
観衆が騒めく。だが、それも仕方のない結果だった。
そして、控室に戻ったところ、バルテマーが出迎えていた。
「デッドリッグ、貴様──」
「バルテマー殿下、優勝おめでとうございます!」
「何を抜け抜けと。
あの数字、貴様なら上回れた筈だろう!」
「何を仰っているのですか、兄上?
魔法を極めんとする者ならば、あの試技に意味があった事は容易に予想が付くと思いますがね。
何せ、狙った通りの威力の魔法を、狙って出せる事を証明したのですから。
尤も、『1Pt』上回る事の縁起の悪さをお互いにとって出さぬように、下回る方を選んだのですけれどね。
さあ、表彰式ですよ、参りましょうではありませんか!」
デッドリッグは、言っていて『コレじゃ確かに悪役のセリフだよ』と思わないでも無かったが、無詠唱であったポイントを示されなかったのには、「甘いな」と感じていた。
それに、例えドラゴンを討伐する時にも、最も初歩的な魔法を数打つ方が効果的だと、デッドリッグは知っていた。
故に、必要無かったが使う魔法の名前を口にしたのだ。
極めれば極めるほど、基礎的な魔法の方が効果的。コレは、ほぼ全ての魔法に言える事だ。
事、攻撃魔法に関して言えば、ソレはより確実な事が言える。
中には、密閉空間における爆発魔法と云う側面で、『ファイア・エクスプロージョン』と云う例外もあるが、非常に状況を選ぶし、却って自身をも巻き込む事にもなる。
まぁ、専門の魔法使いならば、『魔力障壁』と云うモノによって、自身の放つ魔法レベルであれば防げてしまうと云う実情もあるが。
中でも有名なのが、密閉空間での爆発魔法と云う危険性であるのみだ。
ともあれ、準優勝で表彰台行きだ。
3位の者は『1000Pt』にも及ばぬと言えば、バルテマーとデッドリッグのずば抜けた成績が、どれ程驚異的であるのか、判っていただけるだろうか。
後に、デッドリッグはこの成績を以て、『匠石運斤』の二つ名を与えられる事になる。
一般的に、『威力700の魔法を7発当てれば、ドラゴンですら狩れる』と言われるのだが、デッドリッグ以外に、そんなにもの威力の魔法をその数打ち込むのは難しい。
そう云えば、バルテマーが何の魔法を使ったのかを確認しなかったな、とデッドリッグは思うのだが。
まぁ、二人の間での交渉が、可及的速やかに済めば、争う事態にはなるまいと、ちょっとだけデッドリッグは楽観視していた。
公開処刑と言えども、無抵抗で受けるつもりは更々無かった。
そんな男が、ダメージを1Pt単位で正確にコントロール出来る。しかも無詠唱で。
その事実を前に、最早デッドリッグは眠りに就いている時に襲撃を受けないと、襲った側の被害が甚大になる。
──ヒロイン達を見捨てるのならば、公開処刑で死んでも已む無し。と思えるポイントなのだが。
この際、ヒロイン達が言う、フザケ過ぎた公開処刑と云う奴を受けた方が、『公開処刑』と云う運命に立ち向かうのは、無難であるかも知れないと思う一方。
そんなフザケ過ぎた『公開処刑』なぞ、しようものなら、ソレを求める犯罪者が後を絶たないであろうとも思うのであった。
そんな『公開処刑』を受ける為に『罪を犯す』者が後を絶たないのならば、いっそ一度キリ、『この形はコレで最後』として、二番煎じを封じるのも、一つの手かと思ったデッドリッグ。
その言い分が通じないのならば、得意の魔法や剣で、強制的に云う事を聞かせる威圧交渉も必要かと思ったりするのだった。