ドラゴン

第4話 ドラゴン

 公園中を見回し、「あそこが良いね」と香霧が指差した先にはブランコがあった。
 
 二人で二つのブランコに座り、ガムを噛む。
 
 驚いたのは、楓だ。
 
 座った途端、しばらく立ち上がれないのではないかと思えるほど、体が消耗しょうもうしていた。
 
 超能力を使うには、体力が要るのだ。
 
 脳に超能力を使う為の特殊な刺激を与えられることに慣れていない肉体には、顕著けんちょに疲労として負担が現れていた。
 
 だが、デュ・ラ・ハーンの性能は高く、その疲労を回復するプロセスがしっかりとプログラミングされていた。
 
 もし、デュ・ラ・ハーンが最初からそのような働きをするようにプログラミングされているのだとしたら、デュ・ラ・ハーンを作った人間は本物の天才だ。
 
 但し、1年後に死ぬことも意図的にプログラミングされているのだとしたら、彼、もしくは彼女は、天才と紙一重と言われる側の人間なのかも知れない。
 
 一体、デュ・ラ・ハーンはどのような目的で作られたのだろうか?
 
 一番有力な説は、愉快犯の仕業だという説だ。
 
 そうでないのならば、こんな説もある。
 
 自殺用、安楽死する為のウィルスを作り出したが、その過程で超能力を引き出せるプログラムを発見し、そのプログラムでしばらく遊んでから死にたいから、1年後に死ぬプログラムを組み、二つを融合させたという説だ。
 
 だが後者の説は、それではウィルスにした意味が無いという理由から、否定する意見の方が多い。
 
 偶発的に出来たという説も、捨て難いだろう。
 
「ねぇ、楓ちゃん。次は、どんな超能力の練習をしたい?」

「あとは、どんな超能力がある?」

「えーっと、サイコキネシスとヒーリングと、テレポーテーションの練習はしたから……。

 テレパシーとESPとアンチサイと、あとは特殊な超能力。
 
 どれからにする?」
 
「アンチサイ。超能力に対抗する力は手に入れておきたいから」

「オッッッッケー!

 まずは、基礎の基礎から行こうか。
 
 私がサイコワイヤーを伸ばすから、それをサイコワイヤーで絡ませて、無効化してみてくれる?
 
 お兄ちゃんたちがCATするって呼んでいる方法なんだけど、これでサイコワイヤーを必要とする超能力は、全てジャミングする事が出来るから。
 
 あ、ジャミングするって、邪魔をするっていう意味ね。
 
 簡単・基礎にして、最高のジャミング法だから。
 
 他のジャミングの仕方じゃあ、サイコワイヤーは封じられないんだって。
 
 じゃあ、始めるよ。良い?」
 
「うん」

 楓が、ありったけのサイコワイヤーを伸ばして答えた。その数は、軽く100を超えているだろう。
 
「楓ちゃん、凄ーい!

 でも、そんなには必要無いかな?だって、私の出せるサイコワイヤーって、3本が限度だもん」
 
「たったそれだけ?」

「うん。それだけ」

「普通はそんなものなの?」

 この質問には、香霧は困った。
 
「うーん……。お兄ちゃんは10本ぐらい出せるらしいけど、他の人はどのくらいか分からないし。

 分っからなーい」
 
 困った挙句、答える事を放棄した。
 
「じゃあ、三本だけ残してあとは引っ込めるね」

「うん。じゃあ、私も出すね」

 にょろにょろっと伸びた、香霧の3本限りのサイコワイヤー。
 
 楓はその3本のサイコワイヤーを自分のサイコワイヤーで追うが、香霧のサイコワイヤーはそれから逃げる。
 
 そこで楓は機転を利かし、そのサイコワイヤーの付け根である限りを自分のサイコワイヤーで追うが、香霧はとんでもない方向に逃げた。
 
 空を、飛んだのである。
 
「へっへー、駄目よ、楓ちゃん。ちゃんと、サイコワイヤーの作用点である先端を狙わないと。

 驚いた?これが、さっき私が言った、特殊な超能力の一つ。
 
 お兄ちゃんはこの能力を、ワイバーンって呼んでた。
 
 他にも、こんな超能力もあるのよ。見てて」
 
 パンッと打ち鳴らして、香霧は胸の前で手を合わせた。
 
 それをゆっくりと開いていくと、その間に光の球が生み出された。
 
「これが、エネルギーコントロール『ドラゴン』!」

 香霧はそれを無人の砂場へと投げた。光の球は砂場の中に吸い込まれるように消えた。
 
 そして――
 
 ド!
 
 まず、強い衝撃が二人と公園の木々を襲い。次に――
 
 ゴォォォォン……!
 
 鼓膜を劈かんばかりの爆音が響いた。
 
 楓はさほど砂場には近寄ってなかったというのに、爆風で転ばされていた。
 
 爆風が収まった後の砂場には、放射状にガラス化して溶け固まった跡が残されていた。
 
 楓はすっかり砂まみれになっていたが、一方、香霧は砂の一粒すら浴びていない。
 
 砂が飛び散った瞬間を見ていれば分かり易かったのだが、香霧はバリアーのようなもので身を包んでいるのである。
 
「……凄い」