トールの実力

第24話 トールの実力

「いかが?」

 自分の出した結末に、満足気で自慢気味のフラッド。だが、アイオロスは辛口だった。
 
「僕と同じく、一対一なら戦えるでしょう。

 でも、それ以上ではありませんね」
 
「……辛口の評価ね。でも、トールの方は凄いわよ。きっと、驚くわ」

「なら、見せて貰いましょうか」

 トールは担いでいた大剣を、右手一本で構えた。
 
「いつでもどうぞ」

 不敵に言い放ったトール。クィーリーは召喚を始めた。
 
 呼び出されたエンジェルは、クィーリーの命令を聞いた後、すぐに空へと逃げた。
 
「彼も、空を飛べるのですか?」

「いいえ。空を飛ばなくても、戦えるのよ。見ていると良いわ」

 大きく大剣を振りかぶったトール。それを振るうのと同時に、彼は叫んだ。
 
「風牙ぁっ!」

 風を引き裂く刃。それは同時に、目には見えない風の刃を生み出していた。
 
 一直線にエンジェルへと向かった刃は、見事、腹部に命中していた。苦しむエンジェルに、トールは迷うことなく二撃目を放つ。
 
 今度は頭部に命中し、絶命したであろうエンジェルは、地面へと落下した。
 
「――マジック・アイテム、ですか」

「バレたか」

 トールが、握り締めていた柄を見せた。そこには、アルフェリオン製らしき小さな玉のようなものが埋め込まれていた。
 
「私たちが眠っていた魔法科学研究所にあったものです。

 恐らく、トールの為に作られたものと私たちは判断し、彼が使う事にしました。
 
 私たちが魔法科学研究所に行こうとした理由も、エンジェルが住み着いているということだけではなく、このようなマジック・アイテムが眠っている可能性を求めてのことなのです。
 
 ――アイオロスさんも、それは同じではありませんか?」
 
「そうですよ。お陰で、こんな刀を手に入れて、クィーリーまでついて来て。

 諸手を挙げて喜びたいくらいですよ」
 
「確かに、クィーリーさんを仲間に引き入れられたのは、大きいでしょうねー。

 ところで、どうかしら?私たち四人でパーティーを組むって云うのは」
 
「おう、それだそれだ。

 実力がどうこうって話をするより、そっちの方が先に解決すべき問題だと思うゼ。
 
 俺は勿論、フラッドの意見に賛成だが、問題はアンタだ、アイオロスさん」
 
 指を突き付けられ、アイオロスは一度、クィーリーの方を向いた。
 
 ……言わんとしていることを、トールはその些細な行動だけでは気付かなかった。
 
「――クィーリーの意見は聞かないのですか?」

「一応、聞いてみるか?返事は予想がついているけどな。

 クィーリーさん。俺たちとパーティーを組まないか?」
 
「私はアイオロス様に従います」

 予想通りと、トールは満足気に頷く。
 
「だろうよ。

 な?問題は、アンタの意見だろう、アイオロスさん?」
 
「……分かりました。取り敢えず、今はパーティーを組みましょう。でも、途中で目的に相違が生じたら、即座に解散させて貰いますよ」

「――で?アンタの目的は、今は何なんだ?

 俺たちゃ、……何だっけな、フラッド?」
 
 頭を使っているのか使っていないのかよく分からないトールの問い掛けに、フラッドは嘆息してから答えた。
 
「新たな魔法科学研究所の探索よ。ついでに、エンジェル退治も。

 取り敢えずの目的は、それでよろしいですか、アイオロスさん?」
 
「拳銃とその弾丸の入手……も、一応、加えておいて下さい。それ以外には、文句はありません。

 ――ところで、クィーリーのように、必ずしも敵では無いエンジェルも世の中には存在しているようですが、ソレに対してはどう対処するつもりです?」
 
「仲間に出来るなら、引き入れましょう。物質の構成まで出来る魔法使いは、是非とも仲間にしたいですしね」

 今、フラッドの言った『物質の構成』というのは、移動中に彼女がクィーリーに聞いておいた。
 
 ローブと仮面の入手に関するものだ。
 
 クィーリーは、魔法でそれらのものを作り出したのだ。
 
 フラッドの話では、それはとてもとても難しい魔法らしいのだが、説明を聞いていたアイオロスは、研究所を消し去ったあの強力な魔法を見ているから――まぁ、理解出来なかったことも理由の一つだが――、別に驚くことは無かったのだが。
 
「全ての『EMA』が出来るとは限りませんよ?」

「それでも、それに匹敵する魔法を使える可能性もあるわけでしょう?

 それは、仲間にするしか無いじゃない!
 
 グンと戦いが有利になることは目に見えているでしょう?」
 
 ここでトールが、意味不明の発言をした。
 
「そんなことは、今はどうでも良い事なんだが……」

「トール!それがどうでも良い事なワケ無いでしょ!

 下手をすれば、今、話し合っておくべき最優先事項よ!」
 
「それでも、今はどうでも良い事だ。

 見ろ、向こうを」