第13話 トレード手数料
国の代表の選抜とか、そう云う意味では無く、単に上位3名には賞金が出る、『Trade around the Star』の大会が開かれた。
勿論、昼姫はやる気を出して老師・岡本を誘い、その大会に参加を申し込んだ。
国際大会では無い。それが故に、参加者は1万名、応募倍率2.3倍で、昼姫・岡本共に応募が見事当選した。
噂に依ると、日頃のこのゲームの順位が当選に影響していると言われていたが、確かに、最近の昼姫・岡本は成績が良い。
オンラインでの予選になるが、昼姫は老師・岡本と共に、『にっこりステーション』にて充電コードを持ち込みで予選に臨んだ。
そこで昼姫が引いたのが、『輸送船型惑星』である。
その惑星は、惑星間輸送を行う、ゲーム内で重要な要素を担っている惑星であり、初期から数艦の輸送船を持ち、輸送船の製造ノウハウも持っている。
初期から優遇されている、人気も高い惑星だが、立ち回りが難しいと言われている。何しろ、トレードが行われないと、役に立たないからだ。
故に、『トレード優遇管理者権』が与えられており、惑星間のトレードの条件の取りまとめを仕切る特権が与えられている。
そして、トレードを行う双方から、報酬を受けて勝ち点を得て行く。
報酬は、現金である事は稀だ。大抵は、特産物か、金や銀だ。銅の単位に依る小規模トレードは、暇があったら受ける、と云った具合だ。
この惑星がある事が、別銀河の別惑星間でのトレードを成り立たせるものであるが、その存在が無ければゲームが成り立たない、必ず存在する惑星だ。
報酬は、はっきりと言ってしまえば、何でもいい。糞尿ですら、堆肥にしたり硝石を得るのに受け取り、加工貿易は手数料など支払う必要の無い優位性は大きい。
この惑星型は、何もかもの勝ち点が高い。故に重要であるのと共に、高順位を狙い易い。
万が一、出し抜かれそうな星があったら、トレードを止めると云う強権発動で、「優勝を狙い易い星だよ、一旦おめでとう」と、老師・岡本も祝福する程だ。
輸送艦は、ほぼ間違いなくオート生産する対象だ。
序盤から優遇されている上に、終盤の美味しいトレードの手数料も美味しい。
優勝を狙える惑星だと言われても、諸説明を聞けば納得の星だ。
だが、昼姫はこのタイプの惑星のプレイ経験が未だ一度しか無い。今回で二度目だ。
そして、その一度目は、立ち回りに失敗して、他に『輸送船型惑星』を引いたプレイヤーが居たが為に、散々な結果に終わっている。トラウマの星だ。
「ココを乗り越えなくちゃ!」
昼姫はパシンと両手で自らの頬を叩く。そして、老師・岡本に宣言する。
「試合って来ます!」
この惑星は、食糧と鉄と云う二大要素を序盤からトレードの報酬として受け、勝ち点を食べて人口を増やし、輸送船の製造を進める必要がある。
糞尿の類まで勝ち点にするには、中盤から終盤まで掛かる。
勝敗は、全プレイヤーのトレードの内、どの程度のパーセンテージを占めたのかが勝敗の大きなポイントだ。
当然、序盤から食糧と鉄、そして石油は、小規模オートトレードの報酬として渡さない星が出て来る。その殆どがプレイ経験値が低い。
上位プレイヤーは、この惑星にこそ、食糧と鉄、石油を優遇する。初心者と正反対のプレイングをする。
何故ならば、トレード手数料を割り引いて貰えるようになるからだ。
ソレは、暗黙の了解事項であった。ソレを行わない『輸送船型惑星』は、絶対に負ける。必要な資源が手に入らないからだ。
惑星間トレードの手数料の上限には、はっきりとした決まりが定められている。貿易品の10%相当の資源だ。
そして、大抵はその上限いっぱいで貿易を仲介するのだが、序盤から食糧と鉄、石油等の必須物資を支援してくれた星には、最大で3%もの割引を行う。
つまり、その場合の手数料は7%だ。
そのパーセンテージが、『輸送船型惑星』からの『感謝の度合い』と言われていて、大抵は1%程度の割引だ。
それ故に、逆に序盤から優遇され過ぎても、優遇で返さねばならず、ソコが悩みどころであるが故に難しい。
そして、これまでのプレイング経験で、老師・岡本の師事があったとは云え、『Morning』と云うアカウント名の効果は抜群だった。
序盤から、あからさまに優遇狙いのトレードが持ち掛けられる。ソコにも2倍~3倍程度同士の利益が発生しているとは云え、必須物資のオートトレードはありがたかった。
しかも、その輸送を『Morning』が請け負うのだから、手数料を取られない。単なるオートトレードとしても、双方美味しかった。
そして、今回、大会内で披露されたのが、以前から苦情の多かった、『全惑星間共通通貨』の搭載が行われたことだ。
単位は、『完』。小銅貨が『1完』。半銅貨が『5完』、銅貨が『10完』、大半銅貨が『50完』、大銅貨が『100完』。小半銀貨が『500完』、銀貨が『10,000完』。金貨が『一千万完』。
細かい各硬貨の価値はお察しの通りである。
そして、当然ながら『偽造』は厳しく禁止された。だが、唯一新たに制定された『通貨作成型惑星』に限っては、限り無く通貨を生産して良い事になっている。
但し、通貨作成の元本は、自ら稼がなければならない。
だが、大金貨一枚作製で、『1億完』になるのだ、不利な訳が無い。
ただ唯一、弱みを言えば、『通貨作成型惑星』に於いては、通貨は価値が低いのだが。それでも、金を輸入して大金貨を作れば、多少の利益にはなる。
但し、全惑星間での硬貨の流通不足が発生した場合、『通貨作成型惑星』は責任として、ペナルティポイントを課せられる。
なので、『通貨作成型惑星』は全ての通貨をバランス良く、大量に生産する必要があった。
コレがこのゲームに於いて、どれだけの影響力を与えるかは、『大きく影響する』と云う事は確実に解っても、その影響の規模は未知数であった。
それ故、勝ち上がる事は相当に難しく、かつ、稼ぐノウハウを自ら作り上げなければならないとあって、『通貨作成型惑星』を引いたプレイヤーは、周囲から同情を買った。
例え熟練プレイヤーが引いたとしても、初心者プレイヤーと大差ない事は明らかだ。
参加者の全割り振り惑星型のデータが齎されてから、約30分の考慮タイム。
そして、優勝賞金100万円を賭けた大会が開始された。