トレード倍率

第12話 トレード倍率

 人工知能プレイヤーが、強くなって来た。

 そんな噂が、『Trade around the Star』のプレイヤー達の中で囁かれ始めた。

 原因は、一つには、『10倍対10倍』のトレードが行われ始めた、と云う事実があった。

 プレイヤーは、ソコまで高倍率のトレードを行った場合、商材が足りなくなり、商材を稼ぐ迄の時間が勿体無いと云う事態に陥るから、やらない。

 最善のバランスと言われているのが、10倍対7倍のトレードと云う訳である。

 この際、どちらがどちらの倍率を引くのかが問題となり、商談が長引く。

 だが、ゲーム内ベスト10に入るプレイヤーともなると、その辺の判断は早くなる。

 タイム・イズ・マネー、である。

 7倍の方を引いても十分、と云う判断を即座に下すのである。

 だが、『人工知能プレイヤー』の場合、生産と加工の工程の操作が、自動化されていない場面での操作が早く、優位を得て行った。

 要は、『10倍対10倍トレード』と云うのは、大規模トレードなのである。

 現実的な話、ソコまでの大規模トレードを行うには、トレード以外の操作を早めねばならない。

 トップ10プレイヤーも、その辺の操作は早いが、人工知能プレイヤーの場合、最高効率で作業を進める事が可能だ。

 大規模トレードを何度行うかが勝敗を左右する、とも言われるゲームだ。

 その大規模トレードの規模を上げる事により、同じ回数なら勝てるプレイングを、『人工知能プレイヤー』はしていることになる。

 故に、Win-Winのトレードをしながら、最高効率の作業で次のトレードに備える。

 そんなプレイングを、『人工知能プレイヤー』はして来た。

 人間プレイヤーは、そのプレイングを許さなかった。

 下位のプレイヤーは、応じても仕方がない。

 だが、10対7トレードに、『7倍』の方を引くプレイングをしなければ、元々、『10倍』と云う高倍率のプレイングを許していなかったのだ。

 だから、『7倍』の方のトレードに応じなかった時期の人工知能プレイヤーは、中々勝てずに居た。

 そりゃそうだ。上位プレイヤーが行うトレードに絡まなければ、他の人間プレイヤーでも勝てないのだ。

 『10倍対10倍』の、お互いに『美味しい』プレイングは、一部、人間プレイヤーで試した者も居たのだが、徐々に廃れていった。

 廃れていったと云う事は、『人工知能プレイヤー』も、10対7トレードの『7倍』の方に食いつき、代わりに、偶に『10倍』の方にも噛ませて貰うプレイングをし始めたと云うことだった。

 こうなると、『人工知能プレイヤー』はゲームを極めて、ベスト5を一度独占したのを切っ掛けに、公式試合での『人工知能プレイヤー』の参加の許可を下さない、と云う事になった。

 そして、『人工知能プレイヤー』を敢えて参加させていた運営側は、そのプレイング動画を公開した。

 それによって、トレードの基礎技術の浸透が進み、人間プレイヤーの技術の底上げが為された。

 辛うじて昼姫は、その底上げより高い技術を、老師・岡本から習いつつあった。

 そして、岡本は一つの決意をしたらしかった。

 ソレは、昼姫のサポートをする為に、スポンサーによる支援を引き受けると云う決意だった。

 アカウント名『Morning』は、忽ち注目を浴びた。

 それは、老師・岡本のアカウント『TAO』に依る、トレードの優遇に因るものも大きかったが、それでも、そのトレードにもたついていたら、順位を上げられなかった。

 遂に、昼姫は順位にして97位と云う高順位に立つことに成功する。

 ソレを支援していた岡本も、88位と云う高順位に立っていた。

 昼姫にしてみれば、驚きだ。まさか、支援をしながらも昼姫より上の順位に立つとは。

「まだまだだね、ヒヨッ子ちゃん」

 昼姫は若干ムッとするものの、それよりも、岡本の勝因の方が気になった。

「私は、どうして未だ、支援を受けていると云うのに、老師に勝てないのでしょうか?」

 ストレートに昼姫は質問する。その答えと云うのが。

「単純な事だよ。瞬間的にでも、トレードの際に相手のトレード履歴が見れるんだ。

 その際、儂が10対7の『7倍』の方を引くトレードをした履歴があるから、相手側は10対7の『10倍』の方を儂に偶になら噛ませてやっても構わないかと云う心理が働くんだ。

 そして、10対7の『7倍』の方を引いた場合は、商材に残る資源が少しあるから、ソレを元手に更なるトレードが出来るんだ。

 プレイヤー心理の裏を突くトレードだけどね。

 でも、順位で勝ったのは、偶々だよ?

 単に、美味しいトレードを受ける際の操作時間の早さの差、かなぁ?

 もっとシンプルに言うと、コレでも『常勝無敗の7年間』があったからこその、腕前の差だね。

 別に、スポンサーを付けなくなっただけで、プレイング自体は続けていたからね。

 でも、もう『常勝無敗』なんて、ソコまで頑張る体力は無いがね。ハハハ……」

 『流石、師匠』。危うく昼姫は、その言葉を吐くところであった。

 そのセリフは、誰かが言い出したのを、老師・岡本が嫌な顔をしていた覚えがあった。

 故に、昼姫は言い方を切り替えた。

「流石、老師」

「ハハハッ。おだてても何も出ないよ?」

 そう言いながら、細かい操作テクとかの公開をして、昼姫を指導するのが、老師・岡本と云うオジサンだった。