第5話 トレードゲーム
『eスポーツを体験してみよう!』のプログラムも、七回目。
昼姫は老師・岡本から、団体戦への参加を推薦されていた。
団体戦。形は色々あるけれど、同じ戦場で5対5の対戦をすると云う環境が推奨された。
「……面白そう」
昼姫は、参加を希望した。
すると、五人組が出来上がって、戦略を考える事になった。
「マンツーマン、でいいかな?」
つまり、団体戦なのに1対1を五か所で行う、と云う意味だろう。
「せっかく団体戦なのに、それじゃ勿体ないと思うんですけど……」
昼姫は勇気を出して発言した。
「じゃあ、代案出せる人」
昼姫は手を挙げた。
「各個撃破。多分、それが最も効率的だと思います」
全く違う二つの案。代案は、他には団体戦の経験の無い五人には立てようも無く、多数決で、昼姫の『各個撃破』の案が採択された。
ただ、撃破する順は、最初のターゲットから考え始めて、中央、一つ右、一つ左、右端、左端の順で狙う事にした。
作戦としては、『嵌め殺し』。ダメージが一発入ったら、ダウンする間を与えず、硬直状態に強攻撃を当て続け、各個撃破。
それは、ソレ自体が悪い訳では無かったが、実際に実行してみた結果。
一人目を撃破する間には、四人がダウンを取られ、残る一人を、敵のキャラ全員で各個撃破、と云う形になり、完全に作戦負け。
「ホラ、マンツーマンの方が良かったじゃねぇか!」
マンツーマンの作戦を提案した男は、鬼の首を取ったかの如く言うが。
「いや、各個撃破の作戦自体は悪くなかった。
ただ、全員で一回、敵全員のダウンを取って、立ち直りの早かったキャラから順に各個撃破するべきだったね」
とは、老師・岡本の意見。実際、2回戦目で岡本の言う通りに戦うと、確かに勝てた。
「勝てるとは言っても、俺はこの戦略は嫌だね!
もっと自由に立ち回りたい!」
「なら、チーム編成からやり直そうか」
そう、このプログラムは3チーム組めるだけの人数が参加しているのだ。
文句があるのならば、他のチームか個人戦に挑んで貰えばいい。
「あの……」
昼姫も挙手して意見しようとしていた。
「この戦略、相手の『嵌め殺し』された人、凄くツマラナイと思うんですけど……」
「うん。だから儂は、このゲームで『eスポーツ』をすることを勧めていない」
「え!?でも、このプログラムでは――」
「うん。ストレス発散にはいいゲームだからね。
でも、儂の仮説を信じて貰えるなら、他のゲームをやった方がいい」
「――因みに、どんなゲームなんですか?」
「トレードして儲けるゲーム。でも、あまり面白さは判りづらい」
昼姫は少し逡巡して覚悟を決めると、こう言い出した。
「――私、ソレ、やってみたいです!」
「儲ける事だけが面白味のゲームだから、ツマラナイと言われても正直、そう云うゲームだからねぇ、としか言えないよ?」
「それでもいいです!」
「そう。じゃあ、インストールするところからだね。
ゲームのタイトルは、『Trade around the Star』。検索してインストールしてみて」
「はい!」
インストールの時間は長く、その日のプログラムの時間を全て消費してしまったけれど、昼姫は岡本に師事し、ゲームを遊んでみた。
「えっ?ええっ!?
どうしよう、トレードするアイテムが無い!」
「ああ、まずは自分の星の生産力を上げるところからスタートだよ。
そして、特産物を得るんだ。
特産物は、自分の星では価値が低いけれど、他の星では大抵、高い価値を持つんだ。
オススメは、消え物かな?」
「あっ!特産品、真珠が出来て来た!
トレードしないと!
えっと……。食糧生産が弱いから、食糧とトレードして貰おう!
――え?千個単位で必要なの?!
うわ!真珠の生産、千個なんてあっという間だ!
次々にトレードしていかないと……」
「『海洋型惑星』を引いたみたいだね。
魚介類も生産できるけど、トレードするなら干物にした方がいいよ」
「えーと……干物生産、っと。
ああっ!真珠の在庫が1億個を超えた!
早くトレードしないと……」
「ソコまで溜まったら、オートトレードの設定をした方がいいよ。
あと、干物も生産するばかりじゃなくて、トレードしないと」
「ああっ!操作が追い付かない!
おかm……老師!どうしたらいいでしょう?」
岡本は、ハハハと笑って昼姫の様子を眺めていた。
「落ち着き給え。そんなに焦ってトレードしなくても、勝ち点は稼げているから。
結局、お得な条件でトレード出来ないと、勝ち点は稼げないから、生産力を上げているだけでも、結構勝ち点は稼げるよ?」
「あっ!お得な条件のオートトレードが成立した!
えっ!?勝ち点にして、2倍?!
真珠の増産しないと……」
「うん、惑星単位の食糧生産&トレードは十分に賄えているね。
なら、もう焦る事は無いよ。
間もなく、勝ち点レーティングが起こるよ」
「勝ち点、勝ち点……ああ!100万点を超えてる!
えっ!?……約10万位……」
勝ち点が100万点を超えた事に喜んだ昼姫が、直後の勝ち点レーティングでは約10万位と振るわなかったのが不満らしい。
「初プレイでその得点と順位はお見事だよ。
他のプレイヤーは、開発が進んだ段階からスタートしているから、生産力が桁違いだからね。
その惑星、もっと育ててやってよ」
「そうなんですか?
うーん……。イマイチ納得できない……。
老師は、どの位稼げるんですか?」
「どれ、やって見せるかい?」
岡本がスマホを取り出し、ゲームを始めた。昼姫はその間に充電を。
「僕は鉱物メインの惑星だからねぇ……。参考になるかどうか……」
岡本の操作は、ある意味、全く参考にならなかった。操作が早過ぎて、昼姫には何をやっているのかが分からなかったぐらいだ。
ただ、宝石とかのトレードによる勝利点獲得がエゲツなかった。簡単に、勝ち点10倍のオートトレードをしていたぐらいだ。
結果、一千万点を超える得点で、順位もそれでも約3000位だった。
「うーん……この惑星のピークは過ぎたかな?
僕も次かその次のプレイ時には、新しい惑星から始めるよ」
「……何故、このゲームなんですか?」
「ん?罪の無いゲームだからだよ。
惑星を繁栄させる。ソレを目的としたゲームだからさ!」
まるで、『パーソナル・ファイター』は罪のあるゲームみたいな言い方だが、もしかしたら、その通りなのかも知れない。
昼姫は、世界の深淵に一歩、足を踏み入れたのかも知れなかった。