第28話 デビルの経済事情
「好意的?」
鋭く反応したのは、クィーリー。
「そ。好意的に。
――って、あなたから彼を奪おうと云うつもりで言ったって訳じゃ無いんだから、そう、敵視しないでいただける?」
「……でも、あなたもアイオロス様に好意を抱いているっていうことですよね?」
「少なくとも悪意は持っていないわ。――だから、睨まないでよ」
フラッドは、本気でクィーリーを怖がっていた。
「まあまあ、クィーリー。僕は君を見捨てるようなことはしないから。
だから、フラッドさんとも仲良くしてくれないか?
それとも、僕の要求には応えられない?」
「いいえ、そんなことはありません!
仲良くしましょうね、フラッドさん」
「ええ」
二人は握手し、とりあえず仲直りをしたようだった。
「さて。これで皆、胸を張ってデビルと名乗れるね。翼を持って、凱旋しようか」
「――私って、デビルとエンジェルのどちらなんでしょう?」
ふと、頭に思い浮かんだ疑問を、クィーリーは口にした。
「『DEVIL』or『ANGEL』、ってかい?そんなこと、重要じゃないよ。
敢えて言えば、どちらでもある、って言えるんじゃないかな?」
「そうそう。細かい事は気にしない。
……ところで、アイオロスさん。エンジェルの翼って、どのくらいで買い取って貰えるものなんですか?」
「一対につき、銀の延べ棒を二つ、ってぐらいが相場かな?
あ、そうそう。クィーリーが召喚したエンジェルの翼は、届けずに処分するので、悪しからず。
彼女が召喚したエンジェルの翼を届けるなんて行為は、はっきり言って詐欺だからね。
僕とパーティーを組む限り、それは許さないから、そのつもりで」
「――でも、トールの奴、もう切り取っているみたいよ」
「――数だけ合わせて、残りは処分します。
クィーリー、出番だよ。
まず、降りましょうか」
下を見ながら地面に降り立つと、そこではトールが嬉々として、エンジェルの翼を切り取っていた。
「見ろよ、フラッド!
パンデモニウムが高値で買い取ってくれると言われるエンジェルの翼が、こんなに沢山あるんだぜ!
こりゃ、しばらく盗賊狩りしなくても食って行けるぜ!
ハハハッ。これなら、ちょっとしたマジック・アイテムなら、買うだけの余裕もあるんじゃねぇか?」
「残念だけど、トール。ソレを全部換金する事は出来ないわ。
クィーリーさんが召喚した分があるでしょう?それは彼女の方で処分するそうよ」
「何でだよ、勿体ねぇ!
こんだけありゃぁ、しばらく完全栄養食を食わなくても金に困らなくなるんだぜ!
それなのに、どうしてだよ!」
「それをやったら、はっきり言って詐欺ですからね。
僕と行動を共にする限り、それは許しません。
クィーリー、処分を」
言ったアイオロスを、トールは殺意すら込めて睨んだ。
「――なら、アンタと行動を共にしないのなら、そうしても構わないってことだよな?」
「トール!」
非難しようと怒鳴ったフラッドを、トールは片手で制止した。
「アンタが金に唸っているようだから分からねぇかも知れねぇが、普通のデビルってのは、悪党から奪うことによって生計を立てているんだ。
その割に合わねェことと言ったら、アンタ、想像した事もねェだろう?アンタが噂通りなら。
詐欺だとォ?それは、アンタが儲かっているデビルだから言える、偽善なんだよ。
大体だなぁ――って、そこの女ァ!何してやがる!」
トールがふと気付いてクィーリーの方を見れば、彼女はただ触れるだけでエンジェルの翼を、彼女が召喚した分の一対だけ、消滅させていた。
「終わりました、アイオロス様」