第20話 テレパシーの送受信
「ドラゴンは使えるでしょ?」
「うんうん、うんうん」
香霧は激しく上下に頭を振った。
その異常なまでの好奇心に、楓は圧倒されることをも余儀なくされた。
「それで、ドラゴンによって操っているエネルギーを他のエネルギーに変換するだけなんだけど……。
ネットを組んで説明した方が分かりやすいかな?」
「何、その『ネットを組んで』って?」
楓自身も正確にその意味を知らない単語の説明を求められ、楓は幾つか返事を考えてみたのだが、どれも適切とは言い難く、説明することを諦め、こう答えた。
「やってみれば分かるから」
「じゃあ、やってみて」
一本のサイコワイヤーが、楓から出でて香霧に繋がった。
「何?普通のテレパシーじゃない」
「僕がさっきのをもう一度繰り返すから、その感覚をテレパシーを通じて疑似体験してみて。
それで出来ないんだったら、香霧には出来ないってことだと思って良いと思うよ」
「分かった。
じゃ、やって、やって」
楓は言った通り、先程使った超能力を、一通りやってみせた。
それを心の中で感じ取った香霧は、OKサインを出し、彼女自身も、それを一通りやってみせた。
「やったー!出来た、出来たー!」
そこまでは、楓の予想通りだった。
ただ一点、香霧の使った超能力が、楓よりも5割増し程度に規模が大きかった事を除けば。
問題は、この後だ。この後も予想通りなら、『ネットを組む』ということの本質を推し量る事が出来る。
予想その1。楓は、先程の超能力を再び一通り試してみた。結果は、予想通り。
「アレ?何か、今の楓ちゃんの超能力って、さっきより派手じゃない?」
そう、三つとも、その超能力の規模が先程より5割増し程度に大きくなっていたのだ。
そして、予想その2。これは、イージスの時にも気付いていた事だが、もう一度、楓は試してみる。否、試してもらうことにした。
「香霧。僕、このサイコワイヤーをちょっと外すから、その状態でさっきの三つを試してみてくれない?」
「いいよ。じゃあ、外してみて」
楓がサイコワイヤーを外すと、香霧は早速あの三つの超能力を試してみた。
すると、電気は見えるか見えないかという程度。炎はロウソクの火にも劣り、氷に至っては何の変化も見られない。
「あれ~?おかしいなー……」
「やっぱり」
疑問点が多少残るが、恐らく間違い無い。
『ネットを組む』ということは、超能力を使う能力を共有するという事だろう。
残っている疑問点というのが、ネットを組んだことによって、読心の能力を得ている筈の香霧が、楓には聞こえた、あのデュ・ラ・ハーンではない声を香霧が聞いていないということなのだが……。
「あ、そうそう。楓ちゃん。楓ちゃんさあ、今日は楓ちゃんのママが、早めに迎えに来ることになっているんでしょう?
そろそろ、良い時間じゃないの?」
「……!」
楓は、すっかりそのことを忘れていた。いや、この際、そんなことは半分どうでも良い。……あんまり良くないが。
問題は、香霧がそれを知っていたという事である。
楓は問う。
「香霧!どうしてその事を知っているの?ひょっとして、僕の心を読んだ?」
「読んだ、っていうか、流れ込んで来て、それから……あ、そうそう。あとはあんまり聞かない方が良いかなぁーって思って、遮断したから、あんまり大したことは読んでないから、安心してね」
「……!」
これで、答えが出た。
やはり、『ネットを組む』という事は、ネットを組んだ者同士の、超能力を使う能力を共有する事だ。
まず、それに間違いない!
では、ネットを組まずにテレパシーを行う事は可能なのだろうか?少なくとも、楓にはそれは出来そうに無い。
何故ならば、楓にとって、最も自然に行った結果によるテレパシーこそが、『ネットを組む』という事だったからだ。
最初は普通の……『ネットを組む』ことよりは普通のテレパシーを行っていたのだから、決して不可能では無いだろうが、今はその普通のテレパシーを行う感覚と、『ネットを組む』感覚とが、完全に同化してる。
むしろ、相手からテレパシーをして貰う方がよっぽど楽である。
と、いう訳で。
「香霧ぃ。ちょっと、香霧の方からサイコワイヤーを繋いで、テレパシーしてみて」
「いいけど、何で?」
「繋いでから説明する」
速やかにサイコワイヤーは繋がれ、香霧の声による『終わったよ~ん』というイメージが送り込まれた。
楓も、『ありがとー』という返事を送る。が、何か様子がおかしい。
『香霧?』
心の中で呼び掛けてみるが、反応は無い。
「香霧?」
今度は、声にして呼び掛けてみた。今度はすぐに、反応が返って来た。
「何、楓ちゃん?」
「ひょっとして僕からのテレパシー、届いてなかったの?」
香霧は「フフッ」と笑って答えた。
「私に出来るのは送信だけって言ったじゃない。忘れちゃったの、楓ちゃん」
「あ、そうだっけ。
ちょっと待っててね」
楓は炎を手の上で踊らせてみた。……増幅はされていない。
どうやら、『ネットを組む』のは、単にサイコワイヤーでテレパシーを繋いだだけではダメなようだ。
これも予想の範疇。問題無い。
「で、説明してくれるんでしょ、楓ちゃん?」
「むぅ……。単にネットを組まないテレパシーが可能かどうか、試したんだけど、僕には参考にならない」
「だから、その『ネットを組む』って、何なの?」
「……予想で言って良い?」