チート

第2話 チート

 MMORPGを遊ぶ。それを即座にお金にする事は出来ない。

 プレイ動画を配信し、気を引くようなフレーズで名付けて、大勢の人に見て貰う。それでスポンサーが付くと、CMを載せることで、ようやく収入に繋がる。

 その収入も、プレイ動画が面白くなければ、何度も見て貰う事は出来ない。

 もっと言うと、著名人の目に留まり、その動画を絶賛して貰わなければ、十分な収入に繋がるだけの回数を見て貰う事は困難だった。

 だがそこに、卯辰の唯一無二のアドバンテージがあった。

 オリジナル魔法の存在である。

 しかし、卯辰はソコでやり過ぎた。

 全体完全回復魔法。

 聞くだけならなんだそんなことかと思えるだろうが、ソレを見た動画の視聴者側の反応は冷たかった。

 白ける。

 一言で言えば、その一言に尽きた。

 何しろ、HPだけでなく、MPその他の消費したステータスを完全に回復させ、バフ以外のステータス異常の全てを治すのだから。

 魔法だけじゃない。卯辰は、ステータスも自由自在だった。

 故に、ハイエンドコンテンツを極めようと云う仲間のみと、行動を共にするようになった。

 そして、そのメンツとクランを組む。名を、『創世の魔導士』と云う。

 相変わらず、卯辰は自重をしない魔法を使いまくっていた。

 但し、『創世の魔導士』において、卯辰は回復役以外の役目を果たしてはならぬとの制限を受けた。一撃でボスを落とすが故にだ。

 卯辰が攻撃をしないとなると、回復に不安は無いにしても、ボス相手には手古摺った。その代わり、回復役は卯辰一人で済んだ。

 何せ、バフを掛ける事すら禁じられていた。当然、ボス――大抵が隠しボス――相手には、緊張感のある戦いを強いられる。

 だが、ソレがいいのだ。

 緊張感のある戦いを勝ち果たせば、強い満足感を得られる。ソレを味わう為に集まっているようなメンツだ。卯辰が回復役以外を禁じられるのは当然だった。

 攻略動画を載せるものの、卯辰のチートのせいで、攻略の参考にならないと、それらの動画は不評だった。

 ボス戦でそんな回復魔法を使ったら、当然、敵のヘイトが卯辰に向く。だが、すぐに耐久役がヘイトを取ってくれるし、一撃やそこらでステータスが上限の卯辰が沈むことは無い。

「むしろ、卯辰が隠しボス?」

 仲間内では、そんな言葉が冗談交じりで囁かれる。勿論、卯辰はそれを冗談と聞き流していたが、確かに、隠しボスの一角には立てる位の実力はある筈だった。

 装備品も、実は卯辰が作った方が優秀なのだが、敢えて、『ゲーム中最強』と言われる装備を集め、その為にボスと戦い、コレクションしていった。

 中には、チート装備と分かっていて卯辰に装備品の作成を依頼される事があったが、それなりの見た目の装備品を作る為に、僅かながら、装備品作成の修行も積んだ。

 その能力は、自分の装備品のメンテナンスをするにも役立った。

 世の中、どんな努力がどんな結果を齎すかは分からないが、全ての努力は、何らかの形で結果を残すものである。

 故に、卯辰も努力を怠る事だけはしなかったのだった。