タイガーホワイト

第21話 タイガーホワイト

「……予想で言って良い?」

 香霧は頷く。
 
「高度なテレパシーを繋ぐことで、超能力を使う能力を共有するっていうこと。

 例えば、僕と香霧とでネットを組んだ場合、僕と香霧の能力を足して2で割らない能力を発揮出来るわけ。
 
 僕は、イチイチネットを組んでまでテレパシーを使うのは危険だから、ネットを組まずに会話出来るテレパシーを使いたいワケなんだけど……」
 
「お互いに、会話以外のテレパシーで覗くことを遮断したらどうなるの?」

「駄目だと思う。

 例えば、香霧は僕の心の中をテレパシーで覗くことを、遮断していたけれど僕の能力を借りる事が出来ていた訳だし……」
 
「……楓ちゃんは遮断していなかったの?」

 眉間に皺を寄せるという、小学生らしからぬ表情で香霧は問う。
 
 楓は「しまった!」と思いながらも、正直に言う事にした。
 
「遮断するなんて、考えていなかったから……。

 それに、思い付いても出来ていたかどうか……」
 
 香霧は一転し、ニコッと笑顔を浮かべた。
 
「正直でよろしい。

 いいよ、そのくらい。
 
 それと、昨日は教えてなかったんだけど、タイガーっていうアンチサイの超能力があるんだけど、それも読み取った?」
 
 しばらく考え込んでから、楓は答えた。
 
「……覚えてない」

「タイガーってね。サイコワイヤーで触れることによって、個人の持つ超能力を使う能力を封じる効果のある超能力なの。

 それを加減して、自分に対して使ってみたら?」
 
「サイコワイヤーを、自分に接触させるの?」

「まあ、この場合、サイコワイヤーは必要無いかも知れないけど」

「やってみる」

 この際、試せることはやるだけやってみた方が良い。それが、結果として自分の能力になるのだから。
 
 そして、自分の能力が高ければ、結果として助かるかも知れない。
 
「やってみるのはいいけど、いいの?帰らなくて?」

「大丈夫。置手紙をしてきたから、ここにいることはすぐに分かると思う。

 タイガーかぁ……。
 
 香霧ぃ。もう一回、記憶を覗かせて貰える?」
 
「良いよ。他の人には嫌だけど、楓ちゃんには特別よ」

「その代わり、僕の記憶も覗かせてあげる」

 楓は目を瞬かせて楓に問い掛ける。
 
「そんなことして、良いの?

 別に、私は覗く必要は無いんだよ。
 
 楓ちゃんは、必要だから覗くんでしょう?」
 
「でも、そうじゃないと対等じゃないもん。

 ひょっとしたら、覗いたことを後悔するかも知れないから、今、そう思っているなら、遮断して」
 
 具体的には、紗斗里がインターネットを検索した結果、1万人以上の『デュ・ラ・ハーン』ユーザーが、100%亡くなったことを指して言っているのだが。
 
「実は、もうしていたりして」

 この返事を聞いて、楓は既にそれを知られていたのかと、ドキリとした。
 
「な~んちゃって。

 あれ?その表情、本当に知らない方がいいことがあるの?
 
 じゃあ、最初から会話以外のテレパシーは遮断する。
 
 それで良いんでしょ?」
 
「うん。僕も、それを知った時はショックを受けたから。

 始めるよ」
 
 楓が放ったサイコワイヤーを、香霧は快く受け入れた。
 
 瞬時に必要な情報を手に入れた楓は、即座にサイコワイヤーを回収した。
 
 そして、楓はタイガーを、加減しながら自分に向けて発動する。
 
『NO、NO!自分に向けるタイガー、タイガーはタイガーでも、タイガー亜種『TIGER WHITE』ネ!

 コレ、加減する必要ナイヨ。自分の超能力を封じる超能力だから、完全に封じたら『TIGER WHITE』まで封じられてしまうから、ある一定のレベルまでしか封じること出来ナイヨ!
 
 不便なモノネ、力があるというのモ』
 
 またあの、デュ・ラ・ハーンのメッセージだ。どうして、こう説明を加えるものか、親切なのか、或いは……と不思議に思える。
 
 コレが、本当に自分の命を奪おうとしている存在なのだろうか?
 
「『TIGER WHITE』……。

 白い虎?……白虎?」
 
「――ちゃん?……楓ちゃん?」

 香霧の声に呼ばれて、楓は意識を現実に引き戻された。
 
「何?」

「あの……聞こえちゃった……んだよね。その……1万人以上が、デュ・ラ・ハーンに感染して死んじゃったっていう話。

 ひょっとして、強く念じてた?」
 
「……!」

 楓は、自分の不注意に泣きそうになった。
 
 香霧には、決して聞かせてはいけなかったことだ。それを……!
 
「何で、みんな気付かないのかなぁ?

 だって、デュ・ラ・ハーンがプラグの中に感染して住んでいる存在なら、全てのプラグを外せばいいだけでしょ?」
 
 極めて明るく言った香霧に、楓はほっとした。
 
 これがもし、泣きそうな声で言っていたなら、楓も泣いてしまっただろう。
 
 だから。
 
 ――本当に、それで解決するかな?
 
 その疑問は、心の中にしまっておいた。
 
 だが、寿命を10年は延ばすプログラムを作成して貰っている楓とは違い、それが楓専用である為、通用する保証の無い香霧がとてもいたたまれず、楓はそれ以上のテレパシーの練習はせずに、今日はこれで帰ろうと思った。
 
「じゃあ、僕、行くね」

「あれ?テレパシーは試さないの?」

 当然、香霧もそれを疑問に思った。楓は仕方なく、サイコワイヤーを香霧に繋いだ。
 
『OK?』

『OK!』

 香霧はサムズアップで返事した。
 
 ネットを組んでいないことを確認する為に、楓は炎を放つが、最初と同じ――いや、それよりも小さい規模だった。
 
 恐らく、『TIGER WHITE』の影響だろう。
 
 楓は速やかにサイコワイヤーを回収すると、「ありがとう」と礼を述べた。
 
「私を探知してサイコワイヤーを繋いでテレパシーする方法は分かってる?」

「見当はついているから、明日、試してみる。それでダメなら、電話するから」

 二人は公園の出口まで一緒に歩くと、そこから反対方向へ進む為、「じゃーねー」と手を振って別れた。
 
 今日は紗斗里と、『ネットを組む』ことについて話し合わねばなるまい。