シヴァンの住処

第4話 シヴァンの住処すみか

「うおおおおおおおおお、スゲぇ!

 こんなデカい図体している割には小さな翼のクセしやがって、なんて速さで飛びやがるんだ、コイツは!
 
 見ろよ、あの鳥たちを!なんてのろまな奴らだ!
 
 はっはっは!」
 
 顔を紅潮させて興奮気味のレズィンを連れて、シヴァンは竜に乗っていた。
 
 つまり、レズィンも竜に乗っている。
 
 勿論レズィンは生まれてこのかた、竜に乗った事など、今までに一度も無かった。
 
 その初体験で乗った竜が、この森に来てから見た中で、恐らく最大のサイズを誇る、巨大な竜だ。
 
 樹海と化した森は、地平線の彼方まで続いている。
 
 竜が住んでいる事を除けば、こんな森は世界中の至る所にあるもので、別に珍しくも何ともない。
 
 そう、大きめの島になら匹敵する面積を持つこの森が、現在では珍しくも何ともないものでしかないのだ。
 
 今からおおよそ100年前、僅か数年の間に10度近い惑星規模の温暖化が起こった。
 
 これにより、南極の氷が溶けだし、海面が上昇する筈だった。
 
 だが、実際には海面は下降した。
 
 何故か。
 
 それは植物の異常増殖の為だ。
 
 それも、そのほとんどが新種の植物に依るものだった。
 
 それらの植物は瞬く間に広まり、地表を緑で染めて行った。
 
 これにより、地表の水分の内、それ以前に加えて新たにそのおよそ十数%を、植物が保持することになった、ということになるだろうか。
 
 更に云えば、最も新しい――と云っても技術上の問題とか諸々の理由で、かなり古いのだが――地図で云う、砂漠と呼ばれる地形が消滅してしまっていた。
 
 昔の地球上の砂漠。それは今、レズィンが居るココもそうだが、全て――まぁ、森と呼ぶかジャングルと呼ぶかは人によって違うが――、植物の支配する世界となっている。
 
 砂浜すら、今の地球上には、非常に珍しい。
 
「見えて来たぞ」

「見えて来た――って、この森の中で……?

 お、おい。……あれは何だ?あの白いものは?
 
 ――まさか、あれは――城?こんな所に城が建っているのか?
 
 アレがお前の家だって云うのか!」
 
 森の中に突き出ているその白い建物は、かなり遠くからでも見る事が出来た。
 
 近付けば、塀で囲まれたかなり広い砂の庭も広がっている。
 
 ソコに、二人の乗った竜は降り立った。
 
 竜の背から飛び降りたレズィンは、一瞬首を傾げた後、驚いたような面持ちで城を見上げる。
 
「コイツは……爺さんの持ってた写真の遺跡じゃねぇか!

 ぼやけて写っていたから分からなかったが、未だ使われている、生きた現役の城だ!」
 
「客室に案内する。ついて来い」

 白は白濁した水晶を思わせる材質のもので築かれていた。
 
 欠片として白以外の色を持たぬソレがあれば、大理石に見えなくも無い。
 
 そして不思議な事に、壁にも床にも天井にも、継ぎ目が見当たらなかった。
 
 城の中は全体的に明るく、だが、レズィンは気付かなかったが、照明に当たるものが何一つ見られなかった。
 
 装飾も無い廊下を歩く。歩く。歩く。
 
 そのうちに、レズィンは真っ白な世界に飲み込まれるような奇妙な感覚に襲われた。
 
 不快感は無く、むしろ気持ちの良い眠りに誘われているような感覚だった。
 
「――う……あ?」