サンプルデータ

第11話 サンプルデータ

 パラッ。
 
 静かな部屋の中、紙をめくる音がした。
 
 夜中だと云うのに、その部屋は明るい。照明が良い為だ。
 
 良いのは照明だけでは無い。机、椅子、その他備え付けられた物全てが良い品である。
 
 パラッ。
 
 再び書類のページを捲る。
 
 その男の服装は、見るからに地位の高さを示している。
 
 それもその筈、彼は帝国の副官を務めるステイブなのだから。
 
「……未だ半分とは云え、予想通り、無駄に終わるようだな。

 所詮、竜など実在する筈が無い。
 
 陛下も、愚かな事を為さるものだ」
 
 パラッ。
 
「……ん?」

 そのデータを見て、ステイブはそれの示す内容を理解出来なかった。
 
「私の知らないデータだ。

 サンプル……何のサンプルだ?」
 
 そこには数字でパーセンテージが表示され、それに並んでサンプルの総数、反応のあったサンプルの数が地区別に表記されていた。
 
 そこに並んでいるパーセンテージはいずれも10~30%と低い値を示していたが、一つだけ、100%を示している地区がある。
 
「どういうデータなのだ、コレは?

 このデータ、担当は……あの怪しげな連中か!
 
 ……待てよ。このサンプルを採取してきたのは、どのグループだ?」
 
 ステイブは書類の山から他の書類を探し始める。やがて目当ての書類を見付け、ソレを調べ始めた時。
 
 コンコンッ。
 
 やけに大きく響く、ノックの音。
 
「誰だ?こんな時間に」

 扉に歩み寄り、用心して小さく開ける。
 
 相手が見知った顔であると分かると、相手が入れる程度に大きく開ける。
 
「何の用だ?」

「閣下、いつもの店でディナーなどいかがでしょうか?」

 ピクンッ。
 
 ステイブの眉の片方が、大きく跳ね上がった。
 
 慌てて返事をしようと、一度、口を開きかけ、ステイブは一呼吸置いて、平静を装ってから返事を返す。
 
「少々、待ってくれ。すぐに済む」

 扉を開け放ったまま机に戻り、二つの書類を見比べる。
 
「……一人か。つまり、期待されていないエリアの筈だな。

 待てよ。期待されているエリアは、調査期間も長めに設定されている筈だな。
 
 ……あまりアテにはしない方が良いのかも知れないな、このデータは。
 
 名前は……レズィン・ガナット。
 
 ……レズィン・ガナット?
 
 何処かで聞いた覚えのある名前だが……。
 
 おっと、急がねば」
 
 ステイブは途中、連れの男にも訊ねるが、結局は『シューティング・スター』との異名を取る、射撃の名手であるということしか判りはしなかった。
 
 その程度では、重要な情報にはなり得ない。
 
 何しろ、調査隊のほとんどが、異名の一つや二つを持っていてもおかしくないほどに優秀な、名も知れた人材がそのプロジェクトには投入されていたのだから。