サトゥル誘拐

第40話 サトゥル誘拐

 サトゥルが消えた。
 
 すぐさまの命の危機は無かろうと、ムーンは楽観視していた。
 
 可能性としては、コアの作り手とバレての誘拐。その可能性が最も高かろう。
 
 ならば、何処かでコアの作成を強要されている筈だ。
 
 幸い、『αシステム』には、知っている者の居場所を探知する機能があった。
 
 居場所は、この街の領主たる伯爵家だった。
 
 まずは、正攻法で伯爵にアポイントを取って、訊ねる事にした。
 
 三日後にはアポイントが取れた。だが、サトゥルの居場所は余所よそに移されていた。
 
 そこで、アポイントを取った時間の前に、ムーンはサトゥルの救出に当たった。
 
 場所は、スラム街の一角だった。
 
 真正面から向かって邪魔する者は切り捨てた。
 
「動くな!」

 サトゥルを見付けた時、その首には剣が当てられていて、一触即発の状況だった。
 
「殺すなら殺すが良い。

 その代わり、お前の命も無いがな」
 
「コ、コイツの命が惜しく無いのか?!」

「簡単に誘拐される奴など、下手に技術を持たせただけ邪魔だ。

 まぁ、どうせせいぜいが7㎝玉を作るのが限界だったろうがな」
 
「やっぱり、秘密はあの水にあったんだ!」

 簡単に種明かしをする者など、却って邪魔だ。そう思ったムーンは、虹の刀Alpherionを構えた。
 
「最後に確認する。

 ソイツを解放するつもりは無いんだな?」
 
「最悪の場合は殺せと依頼されている。

 だけど、俺の命と引き替え、ってんなら話が違う。
 
 コイツを解放するなら、俺の命は保証してくれるよな?」
 
「二度と手出ししない限り、という条件は付くがな」

「わ、分かったよ。

 俺は二度と関わらない。
 
 だから、俺の命は見逃してくれ。
 
 コイツは解放する。
 
 好きに連れ帰ってくれ」
 
 サトゥルは、意外とあっさり解放された。まぁ、ソコに至るまでに何の躊躇も無しに仲間の命が奪われたのだから、自分の命可愛さとは、引き替えには出来ないのだろうが。
 
 サトゥルを連れ帰った後には、伯爵に注意喚起のメッセージを残しておく時間だ。
 
 サトゥルは一人で帰され、ムーンはアポイント通りに伯爵邸を訪ねた。
 
「何のご用事かな?」

 その率直な質問に、ムーンは一刀両断する言葉を放った。
 
「ウチの技師に手を出さないでいただきたい。

 今回は警告だ。
 
 次は、命が無いと思え」
 
 それだけ言い放つと、出された茶も飲まずに席を立ち、帰ろうとした。
 
「さて。何のことやら。

 何か、証拠でも?」
 
 ムーンは、上の空を見上げて、こう言った。
 
「7㎝玉が三つ、というところか。

 ソレをどう扱ったのかは知らぬが、俺の知識と技術無くして、小玉のコアをそう簡単に作れると思うなよ?」
 
 実際、それらのコアを『αシステム』化出来たかは謎だ。
 
 何しろ、コア内部に立体魔方陣を描く方法をムーンは公開していない。
 
 ならば。
 
 今回作られた7㎝玉のコア3つ。ソレを『αシステム』化出来ない限り、サトゥルの身は安全だろうと、ムーンは漠然ばくぜんと思っていた。