第34話 サトゥル流のコツ
コアの小型化は、順調に進んでいた。
流石は、技師の種族・土鉄の職人と云ったところだろう。
直径1㎝までは、順調に進んでいた。勿論、『100%真球』のコアが出来てしまう前にサイズを小型化している。
直径9㎜からは、急に難易度が高くなった。恐らくはココが、コアの小型化の壁なのだろう。
ムーン=ノトスは全く焦らなかった。
むしろ、順調過ぎて怖い位だった。
ここいらでペースが落ちるのを、むしろ喜ばしく思っていた。
そして、サトゥルのメモしていた、コアを作るコツやノウハウを発表しようかと思い、すぐに思いとどまった。
「コアを作る危険性に気付かずに作られると、少々――いや、かなり厄介だな」
だが、サトゥルのノウハウを、独り占めする気は無かった。
そこで、サトゥルのメモ帳を拝借して、複製し、その内容を読破してみることにした。
そして、サトゥルのメモ帳の決定的な欠陥に気付かされた。
擬態語・擬音語の類が多用された、そのメモ帳を読んで。
「ハハッ。コレでは他人にコア作成のノウハウが洩れる危険性すら無い!」
例えば。『ババーンと魔力を注ぎ込んで、キューっと丸くして、ガチゴチと水の正八面体結晶を作る』と書かれていて、サトゥルの精度でコアを作るのは――或いは、土鉄ならば、出来るのかも知れない。
だが、ノトスはそのメモ帳が失われることの心配はしたが、流出する事に対して、全くの心配をしなかった。
そもそもが、コアを作れるノトスを以てしても、そのメモ帳は役立たずだったからだ。
だが、サトゥルには告げねばなるまい。
「サトゥル。ココに書かれたコア作成のコツだが、全く以てして役には立たない。
故に、学会に紹介も出来ないが、構わないかな?」
「別に要らないよ、学会に紹介なんて。
おいらがコツを忘れないようにメモしただけなんだから」
つまりは、サトゥルにとっては重要なアイテムなのだろう。
「ところで、ノトスさん。9㎜への挑戦で、コアの作成ペースが落ちたけど、何か問題はある?」
「いや……。十分に作れている。
なんだかんだ云って、日に5つは作っているだろう。それだけあれば、用足りる。
何せ、材料は超純水だ。魔法で幾らでも継ぎ足せるし、売却益で資金も豊富だ。
問題は、コアの使い道だな。
ボレアスも、新たな10属性の制定以後、何ら成果を挙げていないしなぁ。
ウム、ボレアスへのコアの供給を抑えてみよう。
問題があるようなら、奴の方から言って来る筈だ。
サトゥル、ちょっと席を外す。ボレアスの元に行って来る。
その間、やらかさないように重々注意しろよ?」
「流石においらでも、今、9㎜玉でやらかすような高精度の作業は出来ないよ!」
「フッ。違いない。
もしも来客が来たら、待っていただいて、その間、念の為に作業は止めてくれ。いいな?」
「了解!行ってらっしゃい!」
「ああ。留守を頼む」
そう言い残して、ノトスはボレアスの元へと向かった。