第26話 ゲートの処理
結城 狼牙が帰国した。
第三国を経由して、かなり苦労して帰国したらしい。
「露は、既に疑心暗鬼に陥っている」
彼はその成果を、そう報告して、帰還したいことを告げた。
「ありがとうございます。
コレで、しばらくはこの世界の日本――北海道は無事だと思います。そう信じます」
「逆に、此方の世界の方でも、君たちが露で一つ暴れてみてはくれないかね?」
「――そう云う行為に長けた、『キラーチーム』の一つ、『クルセイダー』に相談してみます。
で、この『世界と世界の接点』はその後、封印しますか?それとも、繋いだままにします?」
「繋げたままで居た方が都合が良いかと――否、そうでも無かったな。
コレラ亜種が此方の世界にも蔓延すると困る。
ひと段落ついたら、封印する事は可能かな?」
「――恐らく。
そもそも、『ゲート』と云う超能力が、30レベル相当の超能力に匹敵するので、一苦労はしますが。
放置するよりはマシでしょう。
ですが、それは未だ先の話になりますね」
「やはり、北海道はどれ一つ取っても奪われる訳にはいかない、と?」
「ええ。そうですね。
ただ、今思い付いたのですが、彼方の国でも、同じように文筆で北海道を奪うべく活動している輩が居ますね。
恐らくはアマチュアかセミプロ。完全なプロでは無いでしょう。
まぁ、その人物に関しては、『クルセイダー』に任せますよ」
総司郎のその言葉を、隼那か恭次が聞いていたら、『俺たち便利屋じゃねぇんだけど』位の事は言われそうだ。
実際、紗斗里や総司郎と、隼那や恭次が貫こうとしている『正義』は、全く別の形なのだ。
紗斗里や総司郎は、『ロー』。ルールに従うものだ。対する隼那や恭次は、『カオス』。ルール無用だが、双方の共通点は、『悪』ではなく『善』。
だが、総司郎が宿る、風魔 疾刀は名が示す通り、『魔』であり、『悪魔』は普通に存在しているけれど、『善魔』は滅多に存在しているものでは無い。
疾刀は、その運命に逆らいながら、必死で善行を積もうと頑張っていながら、『善魔』になり切れず、『式城 総司郎』となる事で、善なる存在たろうとしている。
実際、隼那や恭次たちクルセイダーは、『日本国憲法』にも背いて、『キラーチーム』同士の抗争として、ロシアに殴り込みを検討している。
その事実の恐ろしさに、未だ、殆どの者は気付いても居ない。
『サタン』であれば、討てた。でも、代理と云えども一国の首相として、影武者と云えども国を動かす能力を手に入れ、怒るどころか歓喜している事だろう。
ああ、だから『真実を隠せ』と昨晩辺りに聞いた音楽の曲の歌詞に歌われていたことを、総司郎は思い出す。正確には、疾刀の記憶だが。
露でも、恐らく『首相の死を3年隠せ』と云う指示が出ていたものと思われる。
では、武田 信玄の生まれ変わりだ。その情報の遅れが、日本にとって致命的な遅れとなる可能性を考えていたのだろう。
今から3年後。2026年の『丙午』だ。
ならば、今年がそうであったように、地震のヨゲンは多少の時期のズレがあったとしても、世界の何処かで起こるのだろう。
それも、マグニチュード7以上と云う大規模な地震が。
――コレは、防げない。必ずしも、日本で起こる訳では無かったとしてもだ。
夢で見たと云う情報が、未来から過去に向かって送られたメッセージだとしても、正確な日時全てが一致する可能性は低い。
だが、時期が多少ズレるのならば、恐らく2025年夏。世界の何処かで大規模な地震が起こる。
彼方の世界では、事実がどうなったのか、皆、良く知っている筈だ。
だが、同一時間軸上に居ない者に対して、メッセージを送っても『無駄』と云うものだ。
それでも、彼らは生きている。その事実が語るものは、雄弁であろう。