エピローグ

エピローグ

 女王を退いたプリンは、ごく普通の夫婦として、ジェリーと共に暮らした。

 女王を退いてからプリンが注力したのは、『刻の加護』の解呪であった。

 前女王が開発した魔法であったし、その解呪は言うほど易くはなかった。

 その方法の確立について、プリンは十年の時を要したし、その最中も『刻の繰り返し』は繰り広げられていて、解呪に必要な魔方陣を描くのに、本来であれば一ヵ月程で出来る筈だったのだが、『刻の繰り返し』の件もあって、実質一年間ほどの刻を繰り返して、ようやく完成させた。

 一度目の魔方陣の完成の際には、勝ち鬨を上げたはいいが、そこで『刻の繰り返し』。

 三十回ほど完成させて、ようやく『刻の加護』の解呪に成功した時は、泣き叫んだ。

 一方、元々百年を優に超える刻を生きるエルフであるジェリーは、『刻の繰り返し』は然程の苦難ではなく、『刻の加護』の解呪も拒んだ。

 兎も角、プリンは『刻の加護』を失うことで『刻の繰り返し』と云う苦行から解き放たれるのだが、そこには一つの罠が潜んでいた。──『死に戻り』までは無効化できなかったのだ。

 だが、寿命で亡くなるまでは生きたかったプリンは、『死に戻り』だけは解呪せずに一生を過ごした。

 その内情には、より高度な魔方陣を描く手間を惜しんでのことだった。

 一方では、ジェリーから見れば、プリンの努力は涙ぐましく、しかも、滑稽なものであった。

 何しろ、プリンは『死に戻り』以外の『刻の繰り返し』を記憶していないから難なく何度も同じことを繰り返せて居たのだし、繰り返していても気付きもしていないのだが、ジェリーから見れば、プリンは何度も同じことを繰り返す人形のようだったのだ。

 流石に、プリンに何事かあれば、ジェリーは『刻の繰り返し』を利用するし、そこに躊躇いは無い。

 何せ、永く生きる者であれば、数千年を生きるのがエルフと云う生き物なのだ。──流石に千年を超えると、『ハイ・エンシャント・エルフ』と云う特別な扱いをされ、さながら神の如く扱われるのだが、ジェリーは実際に千年以上は生きられないだろうと、『刻の繰り返し』の経験から悟っていた。

 ジェリーはプリンが死ぬまで生きていれば充分だと、半ば決め付けていた。

 国葬されるほど、プリンは永く女王の座にあった訳でも無し、特別な功績も無い。

 ただ、プリンは家族で過ごす時間を、純粋に愉しんでいた。

 そして、自らの死が、『死に戻り』と云う『加護』故に、余程衰弱して『死に戻り』の余地も無い、と云うほど、辛く苦しく、だけど安らかな死に様を遂げることを、プリンは覚悟していた。

 プリンは死に際に、一つだけ菓子を所望した。

 それは、『琥珀糖』と云う菓子だった。

 プリンにとって、それは『最期の晩餐』に食す価値のある菓子だった。

 そしてプリンの死後、ジェリーは『死出の旅』に就いた。

 曰く、エルフの『剣聖』として崇められ、死に場所を求めて旅すると伝う。

 そして、プリンとは散々子供を作っておきながら、他には誰一人、女を抱くことは無かったとされる。

 吟遊詩人に詠われるようになるのだが、如何なる相手にも剣で負けることは無かったと云う。

 その最期は、唯一人、弟子とした剣士が居り、その弟子の皆伝の証として、陰腹を切り、その弟子に介錯させたと詠われる。

 だが、ジェリーの弟子と名乗る剣士の存在は明らかでなかった。

 これが、『エルフの剣聖、ジェリー旅唄』として、後世にも残る、有名な唄として吟じられることで、ジェリーは社会的に永遠に近しい寿命を持つことに至るのだった。

 そして──

「そう。私の名が、大昔に有名だったことは承知したわ。

 でも、『十三世』は無いじゃない!

 『プリン十三世』なんて……」

 フェアリーとエルフの国、『森の国』に、またも『プリン』の名を継ぐフェアリーの女王候補が生まれるのであった。