ウォーディン秘話

第36話 ウォーディン秘話

「な、何で知ってるのよ!」

「僕の知っているウォーディン師匠も、僕には無い男らしさを持った、ハンサムで立派な男性でしたから。

 僕の理想に、最も近い人ですよ」
 
「あなたでも、一生追い付けないわ。

 寡黙かもくでクール、そして何よりも、ハンサムで強い!
 
 男はやっぱり、強くなくちゃ!
 
 あーあ。出来れば、トールがウォーディンさんみたいにハンサムだったらなー……。
 
 でも、ウォーディンさんですら、私の中ではナンバー2よ。
 
 ――でも、ナンバー1は、決して結ばれ得ぬ人だから……」
 
「それを言ったら、ウォーディン師匠も、決して結ばれ得ぬ人ですよ。誓い合ったパートナーが、いるらしいですから。

 ……まぁ、僕もその人に関しては、良く知らないんですけどね。
 
 師匠って、口数が少ない人だったものですから……」
 
 そんなちょっとした情報も、フラッドには初耳。
 
「――!そうなの?!

 その相手の人って、今も生きているの?
 
 そもそも、あなたの言うウォーディンさんと私の言うウォーディンさんって同一人物なの?
 
 もし、ウォーディンさんが今も生きているのなら、少しでも良いから、話を……。
 
 結ばれなくても良い。ただ出来るだけ、一緒に居られるだけで良いんだから……」
 
「行き先も言わずに去りましたからねぇ……。

 ただ、たった一つ、こう忠告してくれましたよ。
 
 『ルシファーと名乗るエンジェルと会ったら、即座に逃げろ』と」
 
「……!」

 フラッドの表情が、一瞬にして強張り、そして――
 
「ルシファーだってェ?」

 今まで蚊帳の外だったトールまでもが、急に反応を示した。
 
「――知っているんですか?」