ウォーディン探索

第41話 ウォーディン探索

「探しましょう」

 フラッドの第一声がソレだった。
 
「どうやって?」

「ホテルや旅館の類の宿泊施設を虱潰しらみつぶしに探し回って」

「大変な作業ですよ?」

「それだけの価値はあるでしょう?」

 あるかな?無いかもな、とアイオロスは思い、そう思った途端、フラッドが積極的な態度を取っている理由に思いが至った。
 
「――単に、貴女が会いたいだけでは?」

「貴方は会いたく無いの?師匠なんでしょう?」

「――まぁ、会いたいには会いたいんですけどね」

「トールは、文句は無いわよね?」

「何で?そんなもン、レースの時に会えば良いだけじゃねェか」

「何の目的でココに来たのか、早い内に知りたくないの?」

「じぇ~んじぇん」

 お道化どけて、と云うよりは強調する為だろう。ふざけた口調でトールは言った。
 
「……。

 アイオロスさん、貴方は?」
 
「僕は、会いたいですよ、確かに。

 でも、その為の手間を考えると……」
 
 答えを躊躇う間に、フラッドは矛先を変えた。
 
「クィーリーさんは?」

「私は、別に……。

 アイオロス様さえいれば、満足です」
 
「はい、はい。分かりましたよ。

 じゃ、私だけでも探すから、止めないでよね」
 
 そう言われると、アイオロスは人の好さから、こう言わざるを得ない。
 
「――僕らも、手伝おうか、クィーリー」

 聞くまでも無いだろうが、クィーリーの返事は決まり切っている。
 
「はい」

 フラッドは微笑んで、感謝の言葉を口にする。
 
「ありがとう。

 じゃ、トール。留守番は任せたわ」
 
「おう!」

「まずは、このパンデモニウムから当たりましょうか」

「あ、それでしたら、私が聞いた所によりますと、ココには泊まっていらっしゃらないそうです」

「なら、ホテルの場所の聞き込みね」

「師匠の場合、野宿も平気でするから、それがちょっと気懸かりなんですけどね」

「そうなの?」

「ええ。師匠は、人ゴミが嫌いですから。

 でも、イベントなんかは好きらしいんで、そう云う時だけは山から降りて来ていたんですけど……」
 
 ちょっと考えてから、フラッドは探す手間の莫大さに気付いた。
 
「――それって、探すの諦めた方が良いってことじゃないの?」

「だから、手間を考えるとって言ったじゃないですか」

「じゃあ、止める?」

「探したかったら、手伝いますよ」

「ありがとう。――良い人ね、貴方」

「ま、少なくとも悪い人では無いと云う自覚がありますが、良い人であるよう、常日頃、心掛けていますし」

「貴女には渡しませんからね、フラッドさん」

 どうやらクィーリーは、一抹の不安を感じたらしい。
 
「大丈夫。奪わないって。

 じゃ、行きましょうか」
 
 詳しい描写は避けるとして、結果だけを記そう。
 
 ウォーディンは、結局、レースの当日まで見つからなかった。