第40話 ウォーディン出場
「アイオロス様!大変です、大変です!」
クィーリーの慌てた声で、アイオロスは起こされた。
「どうしたんだ、クィーリー。
何か、あったのかい?」
「出場者の中に、何故かウォーディンと云う名前が……」
「何だってぇ?」
これには、アイオロスも驚きでパッチリと目が覚めた。
「どう云う人なのか、聞いたかい?」
「私の知る、ウォーディンさんの特徴と変わりませんでした。
トールさんは、アイオロス様とそのウォーディンさんに、半々ずつ賭けて来たんですけど……」
「……それがもしも、僕の知るウォーディン師匠なら、僕の優勝も危うくなる。
保険の為に、そのウォーディンさんに賭けておくといい。
もう一本、延べ棒をあげよう。
それなら、僕が優勝すればあのアルフェリオンの盾が手に入るし、ウォーディンさんが勝てば、賭けた分、得をする。
何故か師匠は実力の割に無名だし、倍率も高いだろう。
これ全部、賭けて来てくれないかな?」
「分かりました!
ちなみに、トールさんがフラッドさんにもそのことを伝えに行きました。
――勝てますか、アイオロス様?」
少し考えて、アイオロスは自信が揺らいでいるのに気付いた。流石に相手が悪過ぎる。
「――五分と五分……いや、七対三で不利だと思う。
さっきあげたアレは、全額、僕に賭けたのかい?」
「ええ、勿論です!」
「それは、師匠にもっと賭けた方が良いな。師匠が相手だと、流石に勝てると云う自信が無い。
クィーリー。更にもう一本、延べ棒をあげるから、それも全額、師匠に賭けて来てくれないか?
さっきあげたのも、全部だよ」
「はい、分かりました!じゃあ、早速」
「それにしても……何の為に、このレースに……?
ああ、そうだ。行ってらっしゃい、クィーリー」
「行って来ます!」
やや速足で、クィーリーは去った。
アイオロスが考え込む。
何が目的なのか。それが重要だ。
「僕が居る事を知ったら、どんな反応をするだろう……。多少の噂は、耳に入っていると思うけど……」
まずは、会わなければ話にならない。恐らく、レースの時には出会えるだろうが……。
「探したいな。レースが始まる前に」
デビルには、なっていない筈。
少なくとも、翼を売ることはしていない。
そんなことをしていたら、ウォーディンの実力なら、アイオロスを遥かに凌ぐ実力を持っている筈。
恐らく、アイオロスら四人が束になっても敵わない。――情報面でも。
ホテルを全て回って聞き込むか――。無理だろう。その為には、この街を知らな過ぎる。
住所を調べたって、その住所が指し示す場所が分からない。
この街の住人に聞けば、ある程度は分かるだろうが……。
「多分、フラッドさんも探したがるだろう。
――四人で手分けをして探すか」
何か、アイオロスは軽い高揚感にあった。
ライバルの居ない筈だったレースに、自分以上の実力者が出る――。
あの盾の他に、三位までは賞金が出るらしいが、一位と二位・三位の収入の差は、余りにも大きい。
大人しいアイオロスでも、燃えて来るものがあるのだ。
「負けませんよ、師匠」
自然と、顔には笑みが浮かんでいた。