第14話 ウィルス
「何だ。ヴァンパイア・ウィルスの存在自体は知っていたのか。
ならば、もっと早く言い当てられていたと思うがね。それとも、単に頭が働かなかっただけなのかな?」
「その通りだ。俺は、頭が良くないんでね。
……そうか。ヴァンパイア・ウィルスは遺伝以外の方法でも感染するのか。
一体、どれだけの数がいるんだ、ヴァンパイアは?少なくとも、俺たちワータイガーよりは多そうだが……」
「君たち程の生殖能力は無いよ。
子供は、作っても一人、多くて二人がいいところ。
血を吸って感染させるのは、僕らにとってはタブーに近い。今回は、保身の為の警告の為。
だが、僕は、タブーだから血を吸わない訳では無い。先祖が書き残したタブーを、今さら守るつもりも無い。
ただ、自分の都合で制限しているだけだよ。
いざとなったら、君の血を吸うことも考える。君にとって、それが望ましくは無いことなのか、望ましいことなのかは考えずにね。
ちなみに、僕がヴァンパイアだから、拳銃が通用しなかった訳では無い。
試しに、彼に撃ってみたまえ。脳か心臓を撃ち抜けば、絶命するよ。
君なら、頭を踏み潰すことも可能なのではないかな?」
恐怖を感じた、それだけが理由では無いだろうが、一雄の顔から血の気がサーッと引いて、真っ青になった。
「こ……殺さないで下さい、虎白サン……。
た、助けて……下さい……」
「殺してあげるのが慈悲だと、僕は思うのだが……。始末は君に任せるよ。その道では、プロフェッショナルなのだろう?」
狼牙は、札束を数えもせずに内ポケットにしまい、入り口へと振り返った
「待てよ。このまま帰る気か?」
「……悪いかね?
ここでの用事は済んだ。他に、済まさなければならない用事がある。スーツも新調しなければならない。
どこに、ここに留まる理由がある?」
「コイツを助けようって気はねェのか?」
「安心しろ。君なら殺せる。
そのうち彼の方から、『いっそのこと殺してくれ』と言い出して来る筈だ。
助けたければ、救急車を呼べばまだ今なら手足を縫合出来るかも知れない。
そのどちらにするかは、君次第だ。僕としては、クズにはさっさと消えてもらいたいから、殺して欲しいがね。
それなりの理由があれば、この事務所にいる全てのヤクザを殺したいが、理由もなしに大量虐殺というのは、僕の流儀じゃない。
そうそう、僕の恋人に何かがあったら、それは全て君たちのせいにして、全員にこれ以上の悲惨な目に合わせるから、覚悟しておきたまえ」
「ただの事故でもか?」
「ただの事故でも、だ」
「アンタ、下手すりゃヤクザよりも酷ェな。言っていることとやってることが、無茶苦茶だゼ。
……まぁ、当初の五倍の金額を用意させておきながら、当初の二分の一の金額しか受け取らない、ってのは、敵対したくない、って意思表示なんだろうが……」
「ならば、全額を受け取った方が良かったかね?
必要最低限のみを受け取ったのだから、それで僕のことをどうこう非難されるのは心外だね」
「……分かったよ。なら、さっさと帰れ。そして、二度と俺たちに関わるな!」
「それは、僕も言いたいセリフだね。
では、サヨウナラ」
そう言って、狼牙はその事務所を去った。
平木組にとっては、あっという間の災難であった。