イージス発動

第9話 イージス発動

「じゃあ、やってみて。やるからには、成功させてね!」

「うん!」

 威勢よく返事はしたものの、それは難しい作業だった。
 
 レオパルドを広い空間に投影する。それは即ち、レオパルドを放棄するに等しかった。
 
 どうすれば、レオパルドを失うことなく、パンサーを発動させられるのだろうか?問題は、その一点に尽きた。
 
 レオパルド、ライオン、キャットの三つを同時に発動することが可能なのは、既に実証済みだ。
 
 そして、試してみると、パンサー、ライオン、キャットの三つを同時に発動する事にも、成功した。
 
 だが、レオパルドとパンサーを同時に発動させる事がどうしても出来なかった。
 
 やがて楓は、ライオンとキャットを同時に発動させ、瞬間毎にレオパルドとパンサーを交互に発動させる事にも成功した。
 
 そこから、レオパルドとパンサーを同時に発動させることに挑戦する!
 
 要は、注ぎ込むパワーの量を、レオパルドとパンサーのそれぞれの範囲に応じて調節すれば良いのだ。
 
 レオパルドには濃く狭く、パンサーは薄く広く。
 
 その為には、まずパンサーを発動させ、それから自分の体表面に送り込むパワーの量を多くして、全力で超能力を拒絶する!
 
「出来……た!」

 最後の一文字を発声する瞬間に、楓はその超能力を成功させた……つもりだった。
 
 実際に発動した超能力はと言えば――
 
「楓ちゃん。何、それ?

 盾みたいに見えるんだけど」
 
 そう、楓の正面に、楓の体をすっぽりと隠す程の大きさの、超能力視力を持つ者にしか見えない盾が出来上がったのだ。
 
「何だろう、コレ?」

 作り出した楓自身も驚いた。その直後、さらに驚く出来事が起きた。
 
『Oh,My God!』

 デュ・ラ・ハーンが叫んだのだ。
 
『デュ・ラ・ハーン、何の用?』

 楓は心の中でデュ・ラ・ハーンに問い掛けた。
 
『AEGIS!究極のアンチサイ!

 何故Youに、それを発動させることが出来るのだ!
 
 AEGISは、限られた者にしか発動出来ない、特別なものなのだよ!
 
 Youはそれに選ばれたのだ、喜びたまえ!』
 
 楓はデュ・ラ・ハーンに言われたことを、そのまま香霧に伝えた。勿論、妙に高いデュ・ラ・ハーンのテンションは自分好みの高さにまで下げたが。
 
「それって凄い事なの?」

「凄い事だから、デュ・ラ・ハーンがそう言ったんじゃないかな?

 試しに、これに目掛けて、ドラゴンで全力で攻撃してみてよ」
 
「危ないんじゃない?私、楓ちゃんを殺したくないよ」

「大丈夫。四つものアンチサイが融合して出来た代物だもん。ドラゴンぐらい、防げるのが当然じゃない?」

「……」

 無言で考え込んだ香霧。様子を悟って心配した楓が、「どうしたの?」と問いかける。
 
 香霧はそれには答えず、楓は更にこう言った。
 
「まさか、ドラゴンが発動出来ないとか?」

「そうじゃないのよ。

 どうしたら、楓ちゃんに危険が及ぶことを防ぎつつ、それの強さを確かめる事が出来るんだろうなー、って考えてたの」
 
「大丈夫。正面からなら、ドラゴンの攻撃位、防げるから」

 自信たっぷりで言う楓に、香霧は驚いて目を見開いた。
 
「楓ちゃん、それの強さ、分かるの?」

「んー……。何となく。

 僕は、僕の事を心配するぐらいなら、香霧が爆風で吹き飛ぶことを心配して欲しい。
 
 ライオンを発動させながらやったら良いのかな?」
 
「あ、それダメ。アンチサイと他の超能力って、相性が悪いんだ。

 だから、よっぽどの実力者じゃないと、アンチサイと他の超能力の併用はできないんだって。
 
 私も、お兄ちゃんにそう言われて試してみたけど、出来なかったんだ。
 
 そうねぇ……。ドラゴンによるバリアを併用するのがいいのかな?」
 
 これには、楓は疑問を抱いた。
 
「ドラゴンによるバリアって、アンチサイとは別物なの?」

「うん。ドラゴンって、単なるエネルギーコントロール能力だから。

 ちょっと、他に試したい事があるんだけど、やっていい?」
 
「うん。……何するの?」

「いや、それが現れた途端に、私が出していたサイコワイヤーがかき消されちゃったから、ひょっとしたら、サイコワイヤーも防ぐ能力なのかなー、と思ったから、試してみたくて」

「それは、是非ともやって欲しい」

 双方の意思が噛み合った事に喜び、香霧はニコッと笑った。早速、サイコワイヤーを一本、イージスへと向かって伸ばした。