イニシアティブ

第8話 イニシアティブ

 『クルセイダー』による『Swan』での治療は、『高い』と云う声が多かった。

 だが、『クルセイダー』も慈善事業で始めた商売ではない。

 価格は将来的に下げられる可能性を検討されてはいたが、現状では未だ利益も上がっていない。『Swan』購入の代金に満たず、赤字である。

 それでも、一年以内に元手は稼げそうである。

 患者は、特に末期癌患者が多かった。次いで、AIDS患者が。

 はっきり言って、ひと月に一件では、間に合わないだけの需要があった。

 それこそ、『高い』と言う者を無視しても良い位には。

「アレ~?月に一件って話じゃなかったっけ?」

 治はそうぼやくも、書き入れ時である。依頼が来たら、赴いていた。

 不渡りを防ぐ為、全て『いつもニコニコ現金払い』でお願いしていた。

 それでも、患者は絶えないのである。

 中には、何とか資金を集めた者もいたが、治が『値下げした方が良いのではないか』と問うと、『全ての患者に平等で無ければ、金持ちほど文句を言う』との返答で却下された。

 そして、金持ちの中には治の買収を企む者も居たが、『Swan』の所有権の問題で、却下された。もしも、『Swan』を買い上げるのならば、『7垓円ならば応じます』との返答と来た。

 当然、現金一括でそんな代金を支払える者など居る筈が無い。

 そもそもが、『クルセイダー』の札幌支部が、失踪したとされる『式城 紗斗里』とのコネを持っているのが、『Swan』を入手出来た原因だ。

 他のルートで手に入る『Swan』など、まがい物だらけの信用できない代物だった。

 治も、治療する際に差し込まれて、治療を終えたら即座に引き抜かれる、厳重な警戒態勢であった。

 ソレもコレも、前任者達の危うい経験から生じるものだった。

 『クルセイダー』に雇われる『Swan』使いは、治で四人目であった。

 今現在、三名の『Swan』使いが『クルセイダー』に雇われている。

 内、二人は既に安全がほぼ確実視されている『常連さん』達がお客様だ。

 患者の新規応募者は開拓したいものの、危うい仕事になる。

 ソコで雇われたのが、治と云う訳である。

 治としては、『前もって知らせてくれよ』と言いたくなる状況だったが、しっかりと仮契約の契約書にも、実はしっかりと記されていた。

 なので、文句を言う訳にもいかず、ただ、一件で90万円と云うのは美味しい仕事だな、等とも思っていた。

 危険手当も込み。そう思う事で、治は納得する事にしていた。

 一方で、『Swan』の入手困難の状況に、困っている者たちもいた。

 その筆頭が、米の『セレスティアル・ヴィジタント』であり、次いで露の『アーンギル』や、中の『中華王』であった。

 他にも、朝の『金全』等も動向が怪しいし、中には、『式城 紗斗里』の抹殺を狙っているキラーチームもある。

 兎に角、『Swan』の不足は国際的な問題なのである。

 『クルセイダー』は、そのイニシアティブの一端を握っているだけに過ぎなかった。