第14話 アーンギル殲滅
隼那は、まず日本でのコレラ亜種の蔓延状況の確認をした。
コレラ亜種とは言っても、結局は『Swan』で治せる。
だから、ココに来て治を手放した事に後悔が先立つ。
――否、下手に手札に加えて治療が遅れるよりは、独立して貰った事で治療される患者が増える事を喜ぶべきだろうか?
ココまで考えて、隼那は4人目の『Swan』使いを求める事に思考をずらした。
加えて、生憎の雨模様。
コレが、コレラ亜種にどのような変化を齎すかが心配される。
いっそ、雷でも落ちてくれれば、『レベル7』能力者の発見に繋がるのだが、雷が鳴る様子も無い。
否、『Swan』を扱うには『レベル6』でも適性があれば使える。『レベル7』である必要性は無いように思われる。
だが、『レベル6』の超能力者は、主人公か悪の総統クラスの者でしか届かない領域だ。
そこに来ると、式城 紗斗里の全力とは、如何程のものかと疑念が生じる。
何しろ、彼女の『レベル10』と云う能力は、彼女自身が立証した『理論的限界値』を超える超能力の発動能力を必要とする領域なのだから。
そして、それは恐らく、式城 総司郎にも言えるだろう。
特にアンチサイ能力は、式城 紗斗里でも及ばない筈だ。
「ふぅー、あの二人が協力でもしてくれればねぇ……」
但し、正義感が強過ぎて、クルセイダーへの協力は、まず考えられないのが欠点だ。
まずは陣中見舞いとして、挨拶ついでに様子見をしようかと、隼那も考えていたところだった。
まずは菓子折りでも買いに行こうか。
そんな気楽な気分で、隼那は恭次も誘って行ってみるつもりだった。
だが。そんな時。
『クルセイダー』の末端のメンバーの一人が、慌てて喫茶『エルサレム』に駆け込んできた。
「姉御ぉ!」
「――何事?」
「『アーンギル』が攻めて来やがった!
ついでに、中が台を諦めていないと云う情報も!」
「『アーンギル』?このタイミングで?早過ぎない?
中・台問題は、軍事力でなく経済力で取り込むのなら見逃す方針だと本州支部から情報が流れて来たけれど」
隼那も『クルセイダー』の北海道支部のリーダーとして、決して『コレラ亜種』問題だけに取り組んでいた訳では無い。
本州支部からの情報は、テレパシーに依るものだった。
軍事力による台湾支配なら見過ごせないが、経済力による取り込みならば、ある程度仕方がない。
北海道に関しても、軍事力や暴力による支配を企まれているから、見過ごせないのだ。
そもそも、露が北海道を求めたのは、首相の娘が日本が好きだから、北海道位なら大統領権限で略奪し、プレゼントしようと云う目論見が、全く無いとは言わせない。
だがしかし、軍事力や暴力によって奪った、荒れ果てた北海道をプレゼントされた娘が、喜ぶようならソレは日本が好きとは言えない。
日本の文化が残っていなければ、露首相の娘も喜びはしないだろう。
まして、軍事力や暴力で奪うのならば、その荒れ果てた北海道を見て、娘さんは『パパ最低!』位の事は言われるだろう。
尤も、地理的に国の方針として北海道を奪いたいと云う思惑もあるのだろうから、娘の言葉で『じゃあ返そう』とはならないだろう。
やはり、露と北海道の間のビザ無し渡航を許可する程度が良い落としどころだとは思うが、露は『ロシアンルーレット』発祥の地だ。
恐らくは、無作為に選んだ土地を狙って、侵攻し続けて、いずれは世界征服に乗り出そうと云う魂胆だろうが、最期に中国に裏切られて全て奪われるのは目に見えている。
とりあえず、老いた政治家は引退して欲しいものだ。でなくば、欲に塗れた政治家が増えるからだ。
ともあれ、『アーンギル』が侵攻して来たのであれば、迎撃しなければならない。
出来れば反撃で逆に攻め込みたいところだが、日本は米によって、憲法のレベルで他国への侵略を禁じられている。
『アーンギル』だけが侵攻して来たと云う理由では弱いが、露が国として攻めてきたら、北方四島を日本の領土と見做す発言をしていることを根拠に、北方四島は戦場にしたいところだ。
欲を言えば、二度と攻め込んで来る気が無くなるよう、モスクワに神風特攻したいところだ。
だが、今はそこまでのレベルの争いでは無い。
侵攻して来た『アーンギル』の殲滅。隼那が今、目指すべきは、ソレだった。