第12話 アーチェリー
「オリンピックのメダリストにでもなったら……人気、出るよ?」
不可能、とは言い切れない。ウィリアムの成績と、アーチェリーという競技の特殊性を考えたら。
「でも、オリンピックはルールが違うし」
「そうなの?」
「うん。……って言っても、アタシも詳しくは知らない。
対戦形式だった筈。距離も違ったと思うなぁ」
「ふぅん……」
七十メートルの距離から、122cmの的の中から更に、CDと同じ位のサイズの10点を狙う。オリンピックのレベルとは、そういうレベルだ。
ウィリアム・テルの真似事を、サイトさえ合わせればやってのける。特にメダリストは、そういう世界で対戦している。
だが、驚くなかれ。アーチェリーと言う競技は、もっと命中の精度を上げる事が可能なのに、それを禁ずるルールが存在する。
インドアの大会で、上級者がもしそのルールに逆らってまで命中精度を上げたら、先に的の中央へ射込んだ矢を、恐らく次に放った矢で狙っ壊す事が出来る。インドアでは競う距離が短いという理由もあるが。
オリンピックのメダリストに、それが出来るかと尋ねたら、大抵、出来ると言い、そしてやってのけるだろう。
輝は、そのレベルには到達していない。パフェの目から、贔屓目に見ても。
「インドアなら、ウィリアムにもチャンスはあるんだけど……」
「そうですの?」
「うん。風の影響を受けづらいからね。
矢をカーボンのに変えれば、もう少し点数も伸ばせるのに。細いから、その分、風の影響を逃れられるの。
インドアでは、逆に太い矢の方が有利だから、アイツも満点を取れる可能性が増えるんだけど……」
「……矢の太さで、そんなに違うものなの?」
「全然、違う」
アウトドアでは、パフェの言った通り、細い分、風の影響を逃れられるカーボン製の細い矢が有利。
だが、インドアでは、風の変化などほぼ無い。
その為、得点に関わるルールにおいて、太い矢が有利。
円を描く的の、境界線に触れる場所に当たった矢は、その境界線を挟むゾーンの、より高い得点の方でカウントされるからだ。
ちなみに、カーボンの矢は寿命が短い。カーボンファイバーが、ちょっとしたダメージで裂けてしまうからだ。
矢の選び方一つにも、戦略のあるスポーツなのだ。
だが、オリンピックではアウトドアのスポーツなので、カーボン製の矢は、成績の高い選手は使うことが多いだろう。
大会中、使用する矢は矢の本体からフェザーの色や形、ノック等、全てのパーツが色や素材等、全ての条件において一定の規格でなければならない。
同一規格の矢が尽きたら、そこまでの得点しか、カウントされない。
ただ、十本用意して、全滅するという程の頻度で壊れるものではない。
だが、オリンピックレベルの選手が一般的な30メートル&50メートルの大会で同一の的で競えば、壊れやすいことであろう。
そして、極稀に、全く同じ矢を同じ的で使っていることがあるが、購入する際にお店のサービスで名前を入れてくれることがある。
なので、一切見分けがつかない、という可能性は非常に低い。
ありがちな色で、ノックもフェザーも統一すると、隣の的で使ってました、という危ういことも、ままある。
トップフェザーとフェンフェザーの色を変える等、やはり拘りというものは、持つべき競技なのだ。
「へー、そうなんだー」
パフェの説明を、緋三虎はどの程度、理解しただろう?
「分かった?」
「……気がする」
……多分、右から左へ筒抜けだ。
別に、大した興味があった訳でも無い。
興味さえ持って聞いていれば、理解する頭を持っているということは、彼女の名誉の為、保証することでフォローしよう。
「ところで」
パフェはそう言って、話題を切り替えた。