アニメ映画

第15話 アニメ映画

 ──翌朝。

 ローズ達はたこ焼き屋を休み、デッドリッグと7人で体育館に向かった。

 そして、そこに設置された内の、貴賓席きひんせきへと向かい、座る。

 やがて始まる、アニメ映画『CosmoTreeコスモツリー』。

 デッドリッグは、驚きで声が出なかった。

 そして、上映中に話し掛けるのも野暮かと思い、黙ってそのアニメ映画を観終えた。

「一体、どうやって……」

 デッドリッグにとっては、そこが最大の謎だった。

「動画を撮影するのは難しかったのですけれど、一枚一枚写した絵を、秒間60枚連続で2時間程度、映写する魔法機は作れた。ただそれだけの話ですわ。

 音声と合わせるのに、苦労致しましたけれども」

 ローズが得意げに言う。

 否、得意げにもなるであろう。秒間60枚で2時間と云うと、40万枚を超える絵が必要だった筈だ。

 絵のクオリティは……前世の映画には及ばないものの、この娯楽の少ない世界で、これは画期的である。

「因みに、データを読み取って映写機にコピーする魔法機も作成しておりますので、一つ金貨千枚で、ようやく売り出すことが出来るように体制が整いましたわ」

 恐らくは、デッドリッグの公爵領に移住した時に、経済的に困らない為の策の一環でもあったのだろう。題材は考え物だが、確かに、この魔法機は売れる。

 動画の撮影が難しいのは、編集が出来ないからであろう。絵に合わせて音声の録音も出来ているようだし、それの全てが一発撮りで成功するとは思えない。

 もう少し改良すれば、動画の撮影も可能な筈だし、編集も可能となるであろう。

 ──勿体無い。デッドリッグは素直にそう思った。

 改良の余地があり、その先の完成形も見えている筈なのに、敢えてそこまでの完成品にしていない。

 技術的に、進化の過程のチグハグさが見えたり、何処か妙なのだが、もしもこの形を完成形として思い描いていたのならば、一直線に完成形へと作り進めたように思える。

 今回公開したアニメ映画も、音声がキチンと発せられて、そのボリュームも十分に大きい。だが、これ以上だとスピーカーに近い観客には五月蝿うるさ過ぎるだろう。

「撮影する前の状態の物を売るつもりは無いのかい?」

「撮影の手間を話すと、何故か皆さん、撮影後の作品の買い取りを希望されるのですよねぇ……。

 撮影前のものでしたら、半額だと申しておりますのに」

 ローズが憂鬱そうにそう云う。

「前世の記憶のある俺達の方が、アイディア的にも優位だからなぁ……」

「今年はマイナーな作品を上演致しましたが、昨年はメジャーな作品を放映致しましたよ?」

 ローズは、今年度を以て卒業だ。来年は、上映出来るものか、いささか不安だ。

「あー……だから、今のは観客のウケがイマイチだったのかぁ……」

「でも、誰かがその専門職を育成したら……大変な文化革命が起こりますわよ?」

 もっと言えば、恐らくローズ達は産業革命を起こしたいのであろう。だが、それはデッドリッグが公爵になり、領土を与えられてからだ。

 だが、問題はデッドリッグに齎される『公開処刑』が、如何なる形に因るものかと云う問題にもなる。

 吊るし首の上で晒し首なら、ローズ達の努力が水泡すいほうに帰す。

 それを避ける為にも、来年入学して来るであろう2人には、期待が大きくても仕方がないであろう。

 バルテマーへの当て馬。壊してしまわない為にも、2人両方を引き取って頂きたいところだった。

 そう云えば、アニメ映画の声優に、恐らくバルテマーが混じっていた。

 恐らく、双方の思惑があった上で、協力体制は敷いているのであろう事が予想される。

 バルテマーは、流石は本来の主人公であるだけあって、声も美声なのだ。

 声だけで言ったら、バルテマーは皇帝陛下似。デッドリッグは皇妃殿下似である。

 よって、デッドリッグも美声ではあるが、声の迫力ではバルテマーが勝つ。

 皇太子として、優秀なのはバルテマーなのだ。剣の腕・魔法の腕ではデッドリッグが優っていても、『王者』として、バルテマーは優秀なのだ。

 この国は、3百年もの平和な時代を過ごしている。特に敵対する国も無い。

 平和ボケ、していると言われれば、否定し切れない側面もある。

 そして、バルテマーは何より、帝王教育を受けている。クラスの皆とは別に。

 本来なら、デッドリッグも受けるべきなのだが、皇帝陛下の方針で、バルテマーの皇位継承は決定事項だった。

 デッドリッグとて、別にバルテマーの暗殺計画を立てている訳では無い。

 結果として、デッドリッグは一般的な貴族としての教育を受けている。……領地経営も含めて。

 バルテマーの予備的な扱いは一切無い。全く、デッドリッグが本当に悪役皇子であったならば、如何するつもりだったのか。

 だが、現状のデッドリッグはこう思っている。即ち──「悪役として生きるなぞ、真っ平御免だ!」と。

 それにしたう女性が6人居たからと言って、切り捨てれば悲惨な未来が待っていることを知っているデッドリッグからすれば、見捨てる選択肢は無い。

 クズと云うなかれ、本当に九又きゅうまたしたら、初めて九頭クズと言えと云うものだ。

 ローズではない事は確定だが、中には見捨てられると、サディスティックな貴族に嫁いで、本当に悲惨な、残酷過ぎる結末を迎える娘も、いるのだ。

 それも、デッドリッグは誰かと確定している訳では無いが、確か、場合に応じて、誰がその立場に回るのか、ローズ以外の間で不確定だった筈だと云う記憶を持っている。

 ──見捨てられない。特に、立場がデッドリッグとして転生しているが故に。

 その事実を前に、九又もしていないのに屑と呼ぶならば、見捨てる選択肢を選ぶ奴は屑じゃないのか!?と云うのがデッドリッグの本音である。

 結果的に役得だが、生涯に渡って、責任を取ろうと云う覚悟を屑と呼ぶのならば、バルテマーとて、本来は屑であっただろう。

 そして、この世界が『一夫多妻制』であるからデッドリッグは悲惨な末路を迎えかねないヒロイン達と6又したのであって。

 もしもこの世界が、『一夫一妻制』の世界であったならば、デッドリッグは最も積極的だったローズを妻として迎えたであろう。

 他のヒロイン達に対しては、苦心して他のマシな男を婚約相手として見繕って居た筈だ。

 ──否、一夫多妻制の世界であっても、他のマシな男を用意してやった方が良かっただろうか?

 だが、その考えは既に手遅れ。女性貴族達にとって、純潔を散らすと云うのは、相手の男に責任を取って貰う大義名分たり得る。

 例え側室であれ、その根本は変わらない。

 それに、だ。

 ヒロイン達を他の男子が射止めたとして、自慢気に見せびらかす者が多いであろうことは、ほぼ間違いない。

 デッドリッグとて、他の男子を刺激しないよう、公然と付き合いをひけらかしてはいるが、自然体でいようと心掛けている。

 これ見よがしにしていた事など無い。

 それに、だ。バルテマーが見染めた者たちがヒロインなのであって、他にも女子学生は居る。

 バルテマーの基準が、全ての男の好みに一致する訳では無い。

 だが、今のところ6人は間違いなく美人だった。

 あと2人?も、バルテマーは期待しているであろう。

 兎も角、たこ焼き屋台の件で、ヒロイン達は前世の知識を活かして儲けるノウハウを発揮しそうであることは、デッドリッグにとって、間違いなく吉報きっぽうであった。