もう一周の余裕を

第11話 もう一周の余裕を

 三日粘って、ようやくオーディンさんとパーティを組む事が出来た。
 
 流行は始まりつつあったけれど、他の神様・女神様との狩りの際、贈り物し合う文化は、既に常識レベルになっているようだった。
 
 神様・女神様は、願いを叶え、悪人に罰を下すのが役目。だから、他の神様・女神様達に贈り物で願いを叶える代わりと見做す、というのが理由らしいが、コレも、回数を重ねるとミッションを達成出来て、『お賽銭』が増えるそうだ。
 
 そこで、俺はオーディン様に「グングニルを配って下さい!」とお願いした。すると、オーディン様はこう言った。
 
「はぁ……。グングニルは使い方を誤ると危険だから、三度お願いされたら、一本だけは渡しても良いとは確かに言ったが……。

 月詠尊からの三度目の願いか。良かろう、お前には与えてやろう!だが!今後二度と、グングニルを配る事は無いと覚悟しろ!」
 
 ……何か、特別感を出されてグングニルを貰えてしまったのだけれど、ひょっとして、他の月詠尊様、二度、このオーディン様に同じお願いをしていた……?
 
 でも、俺は知っているんだ。オーディン様が、密かにアテネ様にグングニルを渡している事を。
 
 アテネ様なら、女性ならではの勘が鋭い面をお持ちだろうから、使い方を誤る事は無いと思う。
 
 俺は、イザとなったら『Water Satan』に打ち込むべく、確保しておくのみだ!アチラが攻めて来る迄は、使わないつもりだけどね!
 
 あ、あと、俺はゼウスには近寄らないようにしたい。ゼウスって、神話の中では複数の女神様を強〇しているんだよな。そんな奴と知り合いたくは無い。
 
 アルテミス様とかアテネ様とかは、その結果に産まれた女神様らしいから、何とも言い難いのだけれども、漢ならば、自分の魅力で女神様を振り返らせて、合意の上の子作りをしていたならば、相手が複数の女神様でも、まだ許せる。
 
 つうか、レ〇〇〇ト教の信仰する神様って、ギリシャ神話の神様なんじゃねぇの?
 
 その位、ゼウスのやっている事は酷い。
 
 まぁ、その罪がこのゲーム内のゼウスにあるかと言われたら、多分、無いんだけどさ。
 
 気分的な問題だよ。その、気分が大事なんだよ!
 
 そもそも、リセマラをしなくても、自分が何て神様になるのか、リピートガチャ的に延々と引き直せるんだから、それでもなお、ゼウスを選んだ男、って云うのは……つまり、そう云う事なんだろう?
 
 コレで、ゼウスを選んだ女性プレイヤーと云うのが居ると、ちょっと笑ってしまいそうなんだけどな!
 
 つまりは、自分はそう云う事を望む、って意思表示なのかも知れないのだから。望んでなくて、ランダムで引き当てて勘違いされたら、ご愁傷様でした、って事になるんだけれども。
 
 うん、月詠尊として、そんな偶然性は発生しないで貰えることを切に願う。
 
 ――手遅れって事案も存在している事は、否めないけどな!
 
 ホント、止めて欲しい。
 
 ひょっとしたら、ゼウスはその悪行を裁かれて、『色欲』の魔王『アスモデウス』として堕天したのかも知れないけどな!
 
 ――ん!スキルレベルアップの通知が来た!
 
 最近は、自分の神社でお参りして願う者に与えられる『豊漁』のスキルが、スキルレベルが低いからだろう、そのスキルが上がる事が多かったのだが、今回は違う!『幸運』のスキルレベルが上がった!
 
 コレで、ラッキーチャームを含めると、『幸運』のスキルレベルは『7』まで上がった!つまりは、信者に『幸運』のスキルレベルを『4』まで上げてあげられる!良し、幸先が良いぞ!
 
 ――ん?何で『幸運』のスキルレベルが上がったか、って?
 
 今、俺の神社はオートでお参りしてくれた人に願いを叶える設定をしているから、『幸運』のスキルを与え続けた結果だと思うが。
 
 一回のお参りで与える『幸運』のスキルレベルは、1段階限り。レベル4まで上げられることに、信者が気付くのはいつの事だろうか?
 
 しかし、『馬』と云う生き物は、神話の世界の中でも、特別に別格扱いされる事の多い生き物なのだな。
 
 だからこそ、ペガサスやらユニコーンやらスレイプニルやら、馬に類似した生き物が神話の中では現れるし、でも、何故か『丙午』だけは、縁起が悪いとされる。
 
 ソレは恐らく、他の午に対して、特別に縁起が良くなるようにとの配慮なのかも知れない。
 
 そしてそれは、丙と午の相性の『悪さ』なのかも知れないが、まぁ、今回の丙午を無事に過ぎ去ってくれて、次の丙午の前には『シンギュラリティ』は起こっている筈の計算ではなかっただろうか?
 
 その前に、『キャッシュオーバーフロー』の問題が発生するのだっただろうか?……ん?検索に引っ掛からない。既に解決済みの問題なのだろうか?
 
 まぁ、CPUやプログラミング技術の向上で、十分に解決できる問題だと思っていたから、コレは努力すれば大した問題にはなるまい。
 
 しかし、世の中には破滅主義者が多過ぎて困る。全部をジャミングするのも一苦労なんだが。
 
 それとも何か?やはり、俺が一番『生きたい』と思う時の頃合いを見計らって、世界は破滅するのか?
 
 でも、もう不思議ともう怖いものは無いんだよな。やはり、俺が危惧していた事態は、『自分で自分に呪いを掛ける事』だった。
 
 再三のヒントは与えられていた。だが、魔王と勇者が協力して世界を救う物語に感化され――魔王であれども勇者たらんべく、とある魔王に呪いを掛けたのだ。ソレが、自分にも当て嵌まる事は想定の範囲内だったが、『呪い』が実際に効果があるという事実が恐ろしかった。
 
 人を指差すと、呪いを掛けやすくなる。そんな迷信があったのは知っているが、そんな迷信に従って人に指差されるとキレそうになる連中は、奴らも怒り狂っていたのだ、呪いに掛かっただろう。
 
 俺は、不思議と生命的な『死』は怖くなかった。人はいつか死ぬ。その理を知っていたし、たかが50年でも『夢幻(無限)の如く』とうたわれる程だ、正式な読みではないのは承知の上だが、俺が『呪い』を乗り越えるまでが、異常に長く感じた。でも、今ならココから50年でも短く感じる事だろう。
 
 俺がイジメにイジメ尽くされたのは、恐らくは『運命的な強さ』を引き寄せる為だろう。
 
 どんな災いだろうが、ジャミングしてくれる!何も起こらぬが故に評価される事は無いだろうが、例え神の御業であろうが、鬼の御業であろうが、ジャミングしてくれる!
 
 両端、両極を極めた俺は、ど真ん中を歩く権利があるだろう。
 
 右に出るものは、大成し、小金持ちにでもなると良い。左に出るものは、早くその領域から抜け出し、俺の右に出なさい。そして、成り上がっておくれ。
 
 日本を護る事は、世界を護る事に繋がる。
 
 俺が最強最悪の禁呪を封印し続けられる事が出来るよう、世界よ、日本よ、護られておくれ。
 
 希望よ、歩み寄って来ておくれ。どうか、俺の為、皆の為に。
 
 そして、世界よ。せめてもう一周の余裕をおくれ。60年の、もう一周の余裕を。どうか、皆が希望を抱けるように。