第62話 どちらが大事?
デッドリッグが心中穏やかでなくも、ゆっくりと運転した飛車で。
デッドリッグ達はバチルダの出産前に帰宅する事が出来たものの。
「ハハハ。閣下。出産はあとふた月かみ月は先の話で御座いますよ」
と笑われたものの、問題は溜まった決算書類である。
だが、急げばひと月もかからずに済んでしまうものであり、デッドリッグは書類仕事を頑張った。
頑張った、と思っていたのだが。
ローズから、こんな嫌味を言われる。
「閣下は、ルーヴンツァンより仕事の方が大事ですのね」
ローズも、言ってから思わず、ハッと気付き、「申し訳ございません」と謝罪した。
「否、言いたい気持ちは判る。
だが、俺の仕事で、領民全ての生死に関わりかねない事態になると思うと、ルーヴンツァンはローズに任せるしか無かった。
スマン!」
「いえいえ、ワタクシも中々の我儘を申してしまいました。
コレでは、何の為の正室か……。
深く、お詫び申し上げます。
……ついでと云っては何ですが、側室の全員に、この類の言葉は禁句として、周知致しておきまする」
「ああ、それはありがたいな」
『仕事と家族、どっちが大事なの?!』と云う類の発言は、デッドリッグへとマッハでストレスのピークが訪れる。
家族と過ごす時間を作り出す為に仕事に精を出しているのに、その言葉は選択肢が一つしか無い『究極の二択』である。
勿論、その一択は『仕事』だ。働かざる者食うべからず。仕事をほっぽらかして心中するより、家族をほっぽらかして生きる道を選ぶ。当然の選択だ。
だが、感情的な女性は、コレを全くと言っていいほど理解していない。
そんなに心中したいのならば、一人で死んで欲しいものだ。それも、餓死と云うかなり苦しい死に方で。
赤子は、乳母を雇えば育てられる。ソコを解決するのも、結局は仕事の結果の金だ。
そんな心中主義者なら、別れる事も吝かでない。
ただ……デッドリッグはかなり幼い頃から、教育を施されてきた。
それも、遊ぶ時間を十分に与えられてだ。
父親を父親として認識するまでには、皇帝陛下のその教育方針を、悪くなく思っていたものだ。
故に、そのように自身の子供も育てたい。デッドリッグはヒロイン達とその方針を分かち合っていた。
ただ、1歳(数え年)になったばかりの子供の顔を、親に見せに行った事には、ある一定の理解を得たかった。
コレは、他の全側室とその子ともそのようにしたい方針であった。
そして、その移動手段である『飛車』は、「なんて素晴らしい発明をした!」とまで思っていた。
だが、既に発注しているが、当初、4人乗りの計画で、実際には6人乗りの設計で新たな『飛車』の作成を、『飛車部』には依頼していた。
流石に、国の『飛車研究機関』に依頼する訳にはいかない。が、そもそも、『飛車研究機関』は、コアの作成の段階を突破できずに、止まっていたのだが。
レース用の『飛車』は、広告として早めに開発したかったが、そもそもレーサーの育成もしなければならないが、ソレは『飛車部』としての役割とは言い難い。
だが、究極の選択肢として、デッドリッグがレーサーになると云う案も上がってはいたが、デッドリッグはソレを却下した。
結果、コアを提供できるデッドリッグが、最優先で『飛車部』の創る『飛車』の買い上げの権限を握っていた。
幸い、運転中における事故の類の情報を流したが故に、皇家からの強権発動の気配も無い。
6人乗りとなると、その積む荷物のスペースの確保も重要だ。
そして何より、機体の強度が大きな問題になる。
幸い、未だ『ソニックコア』の搭載機体は創られていない。
強度計算が難し過ぎるのだ。
よって、レース用の機体は試作機すら創り上げられていない。
その為、丁度、強度を試すのにも良さそうな、デッドリッグの注文した6人乗りの飛車の作成の方が、先に創られることになりそうであった。
だが、安全の確保の為、いきなり6人乗りの機体が創られるのではなく、4人乗りの機体が創られそうであった。
いずれにせよ、移動に便利になる事は間違いない。
皇国の『飛車研究機関』は、未だ試作機の一台も作成出来ていない。
デッドリッグからのコアの提供に頼らずに創り上げる事を目指していた為、『飛車部』とは難易度が違うのであった。
結果は急がれていたが、ミスリル銀は本来、伝説的な素材だったのであった。
偶々、デッドリッグが前世でミスリル銀に関する仮説を立てていたから、創られていた物である。
分子構造に関する知識も無い状態では、ミスリル銀はそう簡単に創り上げられるものではなかった。
デッドリッグとて、ミスリル銀以外のファンタジー金属に関する知識は無い。
だが、『空を飛ぶ』と云う観点では、ミスリル銀は優れた金属だった。……正確に『金属』の定義に当てはまる物であるかは怪しかったが。
ソレとて、最初のメインコアの性能である時速1mmで動く性質が無ければ、幾ら増幅しても無駄なのである。
高が1mm、されど1mmである。
ソレは同時に、時速にして1mmが最低単位の効果値であり、ソレ以下の単位で動かそうとしても、無理が生じて来る。
出来るだけ厳密に動くシステム作りをする為に、デッドリッグがその基準を設けたのだった。
実際問題、ソレで問題になる程の事案は起きていない。
4人乗りの機体は、元々早期に創ろうと云う計画があった。
故に、金貨100枚で早々にデッドリッグへと納車がされていた。
『飛車』には、もう一つ、致命的な欠点があった。
操縦テクニックが難しく、現在、デッドリッグと『飛車部』の部長しか、まともに乗れないと云う欠点だ。
コレは、早期にマニュアルを作って、免許制にしようと云う動きがあった。
結果、デッドリッグと『飛車部』部長の次に免許を取ったのは、皇国の近衛兵の一人であった。
当初、免許を取ると息巻いた皇帝が挑戦しそうだったのだが、年齢を考えての代案だった。
この分では、飛車の実質的な最初の市販機は、皇国が購入しそうであったが、それも当然と言えば当然だ。
価格にして、金貨700枚。デッドリッグは、コアを提供しているが故に最低限の必要経費+αで買えたが、皇国はそうではない。
十分な利益を見込んで、初期機としての高い代金となったのであった。