第57話 『Swan』を求め
『クルセイダー』は、頑張った。
治療の対価で、『Swan』100個購入の資金を貯めた。
そして、計7名の『Swan使い』が編成された。
治療の単価は、30万円と未だ少々高い。
だが、所謂難病の治療には、むしろ安過ぎるぐらいであった。
但し、『クルセイダー』は契約した病院でしか、治療を施していない。
ソレは、条件面で折り合いを付ける事が、契約を交わした病院でなくば、保証が無いからであった。
それでも、年間2000名程度であれば治療を施せた。
療君辺りは、「以前の方が楽に稼げた」とぼやいたが、契約の更新には文句一つ言う事無く合意した。
仕事と云うものは、やりがいがかなり重要な要素を占める。
療君にとって、『Swan』での治療と云う仕事に、やりがいを見出していたのだ。
だから、文句一つ言わずに契約を交わした後、こそッとぼやいたのだが。
だが、未だ、『Swan』による治療は、日本国内に限られて行われている。
何故か。
隼那が対価と共に譲ると云うのに、クルセイダーの他の支部は、「タダで渡せ」と要求してくるからだ。
流石に、その条件は呑めない。だが、他の入手困難なサイコソフトと引き換えなら、1対1のトレードだが、応じていた。
それだけでも、隼那には妥協のラインだったのだ。
揉める原因は、『Swan』が100個もある、と云うのが理由として大きかった。
それだけの数があれば、2つ3つ寄越しても良かろうと。
世界各国の『クルセイダー』がそう要求して来たのだ。
当然、ソレは叶える事が不可能だ。
追加生産を頼むとして、隼那が費用を捻出しろと云う事だろうか?
ならば、当然断る。
その、単純な理由に皆が気付いていない。
しかも、その代金が支払われた先は、紗斗里本人ではなく、大和カンパニーだ。
まぁ、楓と疾刀は多少のボーナスを受け取れた。
だが、それだけだ。
世界に多くの餓死者が居る中で、世界の大金持ちは食糧の寄付すらしなかった。全員を助けた訳では無かった。
ソレと同じ原理だ。
一方で隼那は、契約さえしていれば、海外の病院に『Swan』使いを派遣して、治療行為も行っていた。
その国の『クルセイダー』からすれば、ソレすらも恨めしいのだ。
どれだけ図々しいのだ、と云う話だ。――両者から見て。
ただ、他のキラーチームと対立している状態で、仲間割れを起こすほど愚かでは無かった。
「私たちが落としどころを作って、ソコに落ち着かせるしか、手は無いのかも知れないわねぇ……」
隼那は、そんなことを考えていた。
『Swan』の代金を支払わせ、入手した『Swan』での治療の対価は、お好きにどうぞ、と云うつもりであった。
だが、隼那の代案は、金額を指定した上で、隼那達への利益の分配と云う形だ。
ソレを知った他国の『クルセイダー』の一部は、『Swan』の購入に動いた。――やはり、経済的に豊かな国々に限って。
ソレを金額にして、単価700万にまで、隼那は価格を下げた。
それでも、全部は売れなかった。
死蔵させるのは勿体無いとは言え、将来的に使う可能性も出て来る。
隼那は、残った『Swan』の全てをお蔵入りさせた。
「助かる者を見殺しにするのか?」
そう言う者も居た。だが。
「全員を助けられる訳ではないもの」
隼那のその言い分に、反論出来る者は居なかった。