第2話 『eスポーツ』
「判決を下す!」
裁判官がガベルを打ち付けた。
「殺人未遂・傷害罪により、懲役四年の刑を下す!――」
本人が殺意を認め、障がいによる判断能力は『あった』との認識が為されたが故の、判決であった。
昼姫は控訴も上告もせず、判決を受け入れた。
そして、速やかに刑務所へと入所し――食事が、昼姫の好みには全く合わない臭い飯で、最低限を食べると残すようにした。
それから模範囚として過ごし、それが故に恩赦で三年で退所したのだが。
「――誰、コレ?」
昼姫は、鏡を見て驚いた。
確かに、お腹が引っ込み、痩せたとは思っていた。
だが、この絶世の美女は誰だ?――昼姫、貴女だよ!
「嘘ッ!えっ!どうしよう……」
障がい年金の振り込みと、家賃の引き落としにより、昼姫の住処には困らなかった。
むしろ、少しお金の余裕がある。
――肌ケア程度の化粧と、服を買い込もう!
昼姫は決断したら行動は早かった。
そして、今の自分に似合う、可愛い服と、基礎化粧品を買い込んだ。
続いて、精神科デイケアの担当スタッフ、滝川 翔子に連絡を取り、通所の相談をした。
「連絡してくれて、ありがとう、天倉さん」
滝川さんは、未だ以て昼姫の味方だった。
裁判の証言台でも、昼姫は精神を病んでおり、咄嗟の行動で計画性は無く、衝動的な行動で責任能力を問うのは酷だと証言した程だ。
だが、昼姫の「はっきりと殺意を持って刺しました」との発言が悪印象で、処置入院とはならなかった。
兎も角、昼姫にとって、塀の外の食事の美味しさと同じ位かそれ以上に、今の外見が大事だった。
――二度と太りたくない。
そう、昼姫は決意していた。
だから、精神科デイケア『にっこりステーション』に復帰した時も、食事はカロリーコントロールしようと決意していた。
「そう。でも、斎田君も居るけど、大丈夫?」
「大丈夫です。もう、心残りはありませんから」
「それもだけど、逆に言い寄って来たら、どうする?」
「相手をするつもりはありません!」
思えば、滝川さんは知っていたのだ。昼姫の変貌を。何度か、面会に来て「模範囚なら、早く出所できる」とアドバイスもして来てくれたのだ。
結果、刑期を一年縮められた。それは滝川さんのお陰だ。
「じゃあ、色々と手続きを取るから、そのつもりで用意して来てちょうだい」
「はい、ありがとうございます!」
――それから一週間ほど、様々な手続きを踏んで『にっこりステーション』に復帰したのだが。
「――アレ?」
昼姫は、一枚のチラシが貼られているのを気に留めた。
内容は、『eスポーツを楽しもう!』と云うものだった。
「滝川さん。私、コレに参加出来ますか?」
「ええ、出来ますよ?
参加してみる?」
「はい!お願いします!」
こうして、昼姫と『eスポーツ』との接点は出来たのだった。