『完全海洋型惑星』

第17話 『完全海洋型惑星』

 期せずして、ゲーム環境がタブレット端末になったことで変化した。

「ふぅ~ん……」

 昼姫は、それによって色々と自分のプレイングを見直す事が出来た。

 オートトレードの枠は、人口に依って変化する。もっと言えば、『輸送船型惑星』のプレイングにも大きく左右される。

「老師、確認したいのですけれど、『輸送船』の製造ノウハウの入手法って、コレで合っていますか?」

 昼姫は、ノートに記したメモを纏めたページを岡本に見せた。

「――うん。この条件でも、『輸送船』の製造ノウハウは入手出来る」

「『この条件でも』、って事は、他の方法もあるのですか?」

「あるにはある。でも、ソレは自分で見つけてね!」

 安売りはしない。そう云う事だろう。

「『あるにはある』って、他の条件に頼らなくても大丈夫みたいに聞こえるんですけれど」

「コスパ最強の輸送船を作るルートとしては、一番早いルートだからね」

 ああ、そりゃ、『あるにはある』って表現にはなるわよね。

「他の条件は発見しなくても、どうにかなるって事ですか?」

「うーん……それがねぇ。そのルートに辿り着けなかった時に必要になるのだよ。

 でも、条件が限られているから、気にしなくていいよ」

 昼姫はムッとしたらしい。弟子のつもりなのに、教えを請えないとでも思っていそう。

「ああ、本当に気にしなくて大丈夫。

 その場合、『輸送船型惑星』との仲が良ければ、依存していても勝てるから。

 但し、『輸送船型惑星』のプレイヤーが初心者だったりすると、自力で『輸送船』を製造した方がちょっぴり勝ち易くなるだけ。

 因みにその場合、最終的には生産したダイヤモンドを燃料に、『輸送船』を動かさなければならなくなるから」

「えっ!?ダイヤモンドって、第一級の交易材料じゃないですか?!それを燃料になんて!勿体無い……」

「ただ、そうしなければ勝てない場合があるって事だけ知っていれば、ソレで十分だよ。

 それに、特殊相対性理論の発見に至ると、核融合炉で『輸送船』を動かすから、『水素』を買い求める事態になりかねない」

「えっ?!『水素』を買う、って……まさか、このゲーム、空気や水までもトレード材料に成り得たりしますか?」

「うん。他の惑星をプレイしていると気付かないけれど、特に『輸送船型惑星』でオートトレードの設定を偶に覗いてみると、気付く筈だよ。

 まぁ、尤も、『常勝無敗の7年間』なんて目標を立てたりしていなければ、観察しようとも思わない要素だよ。

 需要がある惑星も、供給が出来る惑星も、限られているからね。

 惑星タイプではなく、細かい条件がある一定のラインを超えた時、そのトレードが必要になる」

 昼姫の心を覗けるアタシだから判った事だが、今の発言で昼姫は自分を恥じた。

 師事して貰えないなんて、そんな失礼な事を考えた自分を恥じたのだ。

「でも、天倉さんはそんなプレイング、しようと思わなくていいよ。

 あるレベルに到達すると判るんだけど、水と空気を売買する馬鹿は、まず勝てない」

「……低倍率でのオートトレードにならざるを得ないから、継続して売買して、売買のし過ぎで水と空気の需要・供給の逆転現象が起きるから、ですか?」

「うん。オートトレードをコマ目に観察して、中断して他の条件に切り替える、って手間まで加えるなら、初めて成り立つけど、それなら他の条件でトレードした方がマシ。

 元々足りない惑星で、水と空気の勝利点倍率が高い星だったら、ワンチャンス、アリだけど、量が莫大になるから、まず美味しい条件でのトレードは望めない。

 それこそ、2倍――否、1.5倍の勝ち点を稼ぐ為に、相手に3倍以上の勝利点倍率のトレードでないと、まず引き受けてくれる人が居ない。

 水は辛うじて、『完全海洋型惑星』がトレードに応じてくれるけれど、空気はね。人口に直結する条件だから、俺なら1mlミリリットルもトレードしない!

 特に、売る方に関してはね!

 天倉さんも、『完全海洋型惑星』も、一回はプレイしていたよね?

 あの惑星に関して言えば、最初は本当に海水しか無いから、海水と土のトレードとかで、惑星に不純物を混ぜないと人魚の誕生まで届かないから。

 儂でも、あの惑星で人魚を誕生させるのは、ちょいと骨だ。

 珍しい惑星だから、滅多に当たらないけど、当たった時は残念賞だね。

 でも!通算……4回しか無かったけど、『常勝無敗の7年間』に於いては、儂は『完全海洋型惑星』でも、1位を死守した!

 そして、5回目が引退試合さ……」

 昼姫が、『あの惑星で1位で勝つ?!』と云う事実に疑問を持つほど、難しい惑星だけれど、『人魚』の誕生のノウハウを持っていれば、『人魚』の勝ち点は高い。

 昼姫の場合、一度キリで1万位を下回る成績だったけれど、辛うじて少数の『人魚』の誕生迄は導けていた。

「――負けたら引退すると、決めていたのですか?」

「ああ、はっきりと言えば、そうだね。

 余りに勝ち過ぎているから、負けたらプロからは引退しようと思って、引退した途端に精神を病んだんだ。

 尤も、儂の症状は、ココに通っている皆に比べれば、軽いものだけどね」

 そう云ってハハハと笑える岡本は、確かに老師だろうなと思うのだけれど。

 海水の他に、何も無い状態から始める『完全海洋型惑星』で1位を取るのは、相当に難しいだろうなと思った。

 何せ、1万リットルの海水を糞尿に替えてまで、生命の誕生を待つ惑星なのだ。

 その難易度は、ゲーム内で頂点を競う程だ。

 ――ただ。昼姫はそんな事で諦めるような弱い子じゃない!

「――老師、『完全海洋型惑星』で勝つコツを教えていただけませんか?」

「――別に構わないが、儂に他の弟子が出来た時に、ソレの伝授を手伝って貰うよ?」

 昼姫にしてみれば、美味しいトレードだ。勿論、返事は――

「はい、是非にお願い致します!」

 確かに老師・岡本の弟子になったのは、思えばこの瞬間からであった。