第47話 『公開処刑』の回避
一方で、デッドリッグの存在を疎ましく思う者も居た。
その筆頭が、バルテマー・デッドリッグの実の弟である、カーリン・ドライ=エンピリアルであった。
彼にしてみれば、事態は面白くない。
何しろ、バルテマー・デッドリッグの二人の兄には、女性の方からお近づきになって親しい仲になったのに反し、カーリンは口説こうとしても悉く失敗に終わっているのだから。
高等学園に通うローズの知るところでは無いが、他の全ヒロイン達がカーリンに警戒をしている。
因みに、前世の記憶持ちでは無い。ソコが中々に厄介だったが、ヒロイン達にすれば、警戒の手を打つチャンスがあると云うものであった。
簡単なところで、女性を紹介すると云う手があった。
ただ、カーリンは極端なメンクイであった。そう云う意味では、ヒロイン達8人の他に、匹敵する者は居なかった。
それでも、極端なブサイクは居ない。貴族でブサイクだと、学園に通うに際し、ひと騒動あってもおかしくはないと云う事情もあった。
イデリーナは貴族では無いが、『聖女』として予言を受けて学園に招かれている。当然、とびっきりの美人だ。
しかし、カーリンはバルテマーに対しては、認めるところがあった。だが、デッドリッグの異常なモテ振りに、酷く嫉妬していた。
そこで、ヒロイン達は一つ、手を打った。──仲の良い女子をカーリンに紹介するのだ。
とびっきりの美人には恵まれないが、そこそこ美人なら、紹介して貰える。しかも、複数人だ。
カーリンは、その餌に勢いよく喰い付いた。紹介された、6人全員にだ。
そして、カーリンは耽った。その6人の女性たちに。
そもそも、公開処刑の切っ掛けを作るのは、いつでもカーリンだった。
そこで、ヒロイン達は一計を打った。
『公開処刑』の対象を、カーリンにすり替える事をだ。
だが、その情報の断片がデッドリッグにバレて、ストップが掛かった。
何故?! ヒロイン達の反論は強かった。だが。
「あんな奴でも、俺らの弟なんだよ」
デッドリッグのその言葉に、ならばとヒロイン達は『公開処刑』の完全回避を試みた。
結果、カーリンは学業をも疎かにして女性たちに耽った。
その女性たちは、ヒロイン達から『カーリンは恐らく公爵に任ぜられるから、親しくしておいた方が良い』とのアドバイスを受けている。
『公爵夫人』。実態はどうであれ、側室でもその肩書は立派なものであった。
そして、皇帝・皇后は末っ子であるカーリンに甘い。きっと、治めるのが楽な領地を与えられるに違いあるまい。
その一方、バルテマー・デッドリッグは厳しく育てられていた。バルテマーは次期皇帝なのだから当然だが、デッドリッグにも当たりが強い。
バルテマーは皇国高等学園に進学する事が決定事項だが、デッドリッグにはその権利は与えられそうもない。
即、公爵に任命して領地に飛ばされるであろうと予想されている。──『公開処刑』で死なない限り。
否、正確に言おう。デッドリッグは公爵に任命されて領地に飛ばされた後に、カーリンも公爵に任命されて領地に赴くなり、デッドリッグを非難する。
結果、デッドリッグに対する『公開処刑』と云う結末が、悪役皇子・デッドリッグに待つ運命である。
だが、局面は大きく変わった。
カーリンは、紹介された女性6人に味を占めた。ただ、その報告は皇帝・皇后にも伝え聞こえている。
今の状況下で、罰せられるのならば、むしろカーリンだ。
だが、この状況下に於いても、カーリンは身内から甘く見られていた。
いつか下る鉄槌は、重いものになるであろう。
そして、デッドリッグはカーリンに興味を失った。
公開処刑に導かれるキーパーソンであるが故に観察を怠らなかったが、その内、噂で聞こえ来る情報だけで、自身の安全を少しばかり確信し、観察する必要を見失ったのだ。
バルテマーはそもそも、デッドリッグへの公開処刑は不要だと思っている。
念のため、カーリンの監視を一部の者に任せてはいるが、どうやらそれは、鉄槌を下す判断材料になりそうだ。
皇帝・皇后も、バルテマーが調べた結果を、無為にはしない筈だ。
そんな間にも、時間は過ぎて行く。
気が付くと、バルテマーの卒業が迫っていた。
勿論、バチルダ、アダル、ベディーナの三名も同時にだ。
そして、三人もバルテマーと同じく皇国高等学園に通うのだが、デッドリッグの卒業を待ち、ケン公爵領へと移り住む事になる。
それは、映画祭もたこ焼きも学園では楽しめなくなると云う事をも意味するが、ケン公爵領まで出向けば良いと云う話になる。
だが、この時点で、デッドリッグは未だ『公開処刑』の回避の可能性を知らない。
しかし、ヒロイン達はバルテマーの現在の様子を見て、『公開処刑』は十二分に回避出来るものと判断していた。
実は、『公開処刑』の最終決定権はバルテマーが握っているのだ。腐っても、本来の主役。その位の強権を発動する権利を持っていた。
『ヘブンスガール・コレクション』に於いては、実はたった一つの選択肢、バルテマーがデッドリッグの『公開処刑』に関して、『必要無いでしょう』と言わせれば、回避出来るのだ。
だから、デッドリッグの『公開処刑』の回避の可能性を知らないのは、実はデッドリッグの前世の記憶と選択に依るものだったのだ。
自業自得もいいところ。
そして、実は『聖女』イデリーナの存在に因って、『公開処刑』の回避は確実なものとなっているのだ。
何故ならば、『デッドリッグが主人公だから』。
そう、デッドリッグが主人公でありながら、イデリーナとダグナは『デッドリッグモード』では二人を攻略出来ない。
それは偏に『公開処刑』を回避する為であり、デッドリッグに言わせれば、『主人公が『公開処刑』なんて、どんな傑作だよ!』と云う一方で、プレイヤーの心理を計算された。
例のデッドリッグを貶める呼び名は、追加コンテンツの開発の時点で発生していなく、デッドリッグの『公開処刑』の可能性を消す代わりに、二人の攻略が出来ない。
更に言えば、追加コンテンツで『バルテマーモード』で攻略した場合、8人全員の同時攻略が可能であり、又、『聖女』イデリーナの溺愛コースに於いても、イデリーナは壊れない。
100%の確率で、バルテマーに因るイデリーナ攻略は為され、イデリーナの助言により、デッドリッグの『公開処刑』の可能性は完全に回避される。
それが故の、デッドリッグに因るイデリーナ及びダグナの攻略は不可能であり、そこに、バルテマーが真の主人公たる所以はある。
まぁ、『バルテマーモード』に因る、デッドリッグのダグナ含む7人のヒロイン救出と云う可能性は存在していたが、今は『デッドリッグモード』であった。
何故、開発者達が『デッドリッグモード』に因るダグナの攻略の可能性を無くしたのかは不明だが、展開的には彼ら・彼女らには納得の展開である。
だから、周囲から見れば『デッドリッグは何故、あんなに脅えているのか』と云う話になるが、そればかりは、当事者の気持ちが理解出来なければ判らない。
兎も角、デッドリッグは『公開処刑』のコースから外れつつあるのだ。デッドリッグも、公爵としての領地経営のノウハウの勉強も一応欠かせない。
デッドリッグも、自身が生存するルートの『公開処刑』の確認はしているのだ。今は、そのルートに期待するしか他に無いのだった。