『ゲーム馬鹿』

第27話 『ゲーム馬鹿』

「あの、『Morning』さん」

 『Fujiko』が、様子を窺いながら昼姫に声を掛けて来る。

「試合へのエントリーは?」

「えっ!?エントリーしなくちゃダメなんですか、滝川さん?」

「いえ。前もって予約してあります。

 でも、そろそろ名札を受け取りに行っても大丈夫そうですね」

「既に配られていますよ、ホラ」

 『Fujiko』は、左胸に付けた名札を示して見せる。

「あらあら、それは大変。

 皆さん、名札を受け取りに参りますよ!」

 滝川さんが先導して、会場の受付に向かう。そうすると、エントリー名を伝えると名札が与えられた。因みに、『アカウント名』である。昼姫なら『Morning』と云った具合に。

「皆、名札は受け取った?

 じゃあ、確保しているスペースに向かいますよ」

 その場所には、立て看板に『にっこりステーション様』と書いてあり、延長コードで電源も確保されていた。

「『Fujiko』さん、参加するのかなぁ……」

「多分、儂と似たような境遇じゃから、参加すると儂は思うぞ」

「そうかぁ……ウフッ」

 あらあら、昼姫、妄想を膨らませて緊張感を欠いているわ。

 今日は、大した成績は期待できそうに無いわね。

「おや、『Fujiko』君、隣のスペースぢゃな」

「えっ?!」

 昼姫が老師・岡本の言葉に振り向いてみると、そこにはペコリと会釈している『Fujiko』さんが居た。

 いけない!と慌てて外行きの表情を取り繕う昼姫。

「いやぁ、『Morning』さんがこんなに美人だとは思わなかったなぁ……」

「えっ!?」

 あら、意外と軟派なのね、『Fujiko』さん。

「お主になら、昼姫ちゃんをたくしても良い」

「『昼姫ちゃん』って、『Morning』さんの本名でしたね。

 それで、託しても良いと云うのは?」

「この娘、自分の美貌に自覚が薄いから、蝿共が寄って来るんぢゃよ。

 いっそ、恋人でも居た方が為になると思っての、老婆心ぢゃ」

「「こっ、恋人……」」

 あら。お互いにまんざらでもないのね。

 なら、アタシも手伝って、適当な落としどころでも作っておくかしら?

 そう思って、右手のコントロール権を握って差し出す。

「えっ?あ!」

 『Fujiko』さんがその意図に気付いて、手を握り返してきて、こう言った。

「お友達から、よろしくお願い致します」

「こ、こちらこそ……」

 へぇー、成る程ー。昼姫ってば、メンクイなのねぇ。まぁ、斎田の件でも発覚していたことだけれども。

「で?お二人はいつまで手を握っているつもりかな?」

 フォローするつもりなのか、邪魔するつもりなのか判らないが、老師・岡本がそう言うと、二人は慌てて手を引っ込めた。

「今回は、70人規模の『障がい者限定戦』として、公式なランキングには影響しないようぢゃのぅ……」

「そうみたいですね。一応、僕も参加の許可が下りていますが、『TAO』さんは?」

「儂は紛れもない障がい者ぢゃわい。勿論、参加するぞい」

 『Fujiko』さんが、一寸ちょっと考え込んだ。

「『Morning』さんは、希望する惑星は何処を狙いますか?」

「『海洋型惑星』です。『Fujiko』さんと、一応、老師の意見も聞いておいてよろしいですか?」

 二人が考え込み、岡本があごで『Fujiko』に催促した。

「僕は、『輸送船型惑星』を希望しようと思います。

 『TAO』は?」

「儂は、ならば、『バランス型惑星』でも希望しようかのぅ……」

 二人とも、露骨ねぇー……、昼姫、自分が優遇されて参加できる事態を把握しているのかしら?

「──あっ!お二人とも、私の事はお気になさらず。

 私、自分の実力で勝ち上がりたいので!」

「はい、そこ!お話は後にして、ゲームの方にエントリーして下さい!」

 そんなことを話して居たら、滝川さんからの指示が飛んだ。

「じゃあ、試合が終わったら、感想戦でも。

 健闘を祈ります」

「はい、そちらもご健闘を祈ります」

 コンセントを一箇所確保して、昼姫はタブレット端末を取り出して繋ぎ、ゲームに招待されているのでエントリーを申し込む。

「70人規模って、私、初めてかもです」

「否、自覚が無かった頃に経験済みの筈だよ?」

「そうなんですか?」

「ええ、恐らく。

 確か、最大で300人規模の対局経験がある筈だ」

「えっ?!それって、他のプレイヤーの動向を確認出来ないレベルの初心者の時のお話ですよね?」

「うんにゃ。

 国際大会に出た時に、300人規模の大会を経験している。

 ソレ以上は、コンピューターの負荷が大き過ぎるから、最大で300人規模と決められておる!」

 昼姫、初耳である。

 と云うか、この老師、何故もこんなにも説明を省くのか。

 そう思った瞬間、昼姫が一つの事実を悟った。

「あ……あ──そうか!自分で気が付かないと、意味が無いんだ!」

「ようやく悟って貰えて、教えた甲斐があると云うものぢゃ。

 儂の弟子でも、未だ悟っていない奴が居るからのぅ……」

 そうなると、二人が昼姫の『Morning』を優遇する事にも、意味がある筈だ。

「あ……あ!解った!

 私を独走させて、それに乗っかって、終盤で逆転するつもりですね?

 うわぁ……お二人とも、中々に腹黒い……」

「その分、昼姫君にもチャンスがあると云う事じゃよ。

 精一杯支援するから、独走しておくれ」

 岡本の言う通り、そうでもしないと、多分、未だ昼姫は実力では勝てないのであろう。

 高順位を譲る代償に、トップは頂くと云う言い分は、高いところに昇りたがる煙か馬鹿の類の考え方である。

 岡本と卯月、両者共に、立派な『ゲーム馬鹿』であることだけは確かであるらしかった。