『ウルフ』

第4話 『ウルフ』

「あっ!」

「――あ!」

 気が付いて、昼姫は声を上げてしまった。

 ――斎田だ。

 今、会いたくない人物No.1。

 そんな男が、こんな事を言い出した。

「――い、今のお前となら、――付き合ってやってもいいぜ?」

「断ります!あなたみたいな男なんて、願い下げです!」

「何だと、この――」

「斎田君!」

 幸いな事に、滝川さんが直ぐに気付いてくれた。

「あなたは天倉さんに近付かないで下さい」

「なっ!そんなの俺の勝手――」

「勝手な事を言うのなら、この『にっこりステーション』から追放します!」

 スタッフ権限による、かなりの強権発動であった。事実、その言葉で昼姫は助かっている。

「チッ!覚えとけよ!」

「忘れさせていただきます」

 昼姫はかなり強気だったけれど、滝川さんの前で、何かをやらかすなら、斎田も追放されて行き所が無くなる怖さは判っているらしく、大人しかった。

「天倉さん、何かあったら相談してね」

「はい、そうさせていただきます」

 正直、斎田とはこれっきりにさせていただきたかった。アタシ的にも。

 もっとはっきり言えば、見た目の美醜で寄って来る蝿共は追い払いたかった。

 そして――『パーソナル・ファイター』と云うゲームに打ち込みたかった。

 このゲーム、課金しなくとも、経験を積んだらその経験値で、キャラクターを育成出来るのだ。

 キャラクター名は、『ウルフ』。渋い恰好良さを秘めたオジサンの外見にした。

 長い金髪を流し、服装はまるで自衛隊。目立たないけど、目はヘテロクロミア。右目は赤で左目は青。

「『ウルフ』。たくましく育ってね」

 当面の目標は、あの『Fujiko』と云う名のアカウントのキャラ、『ラビット』と云う名の可愛いけれど激強の女の子のキャラクターに追いつくこと。

 五分に戦えれば、当面は十分だ。

 『ラビット』に負ける『ウルフ』なんて、最早『負け犬』で許せない。

 だから、昼姫は自分の技術と共に、キャラクターも名前に相応する強さを持つキャラに育て上げたかった。

 欲張りな事に、自分の今の美貌を維持したまま――

 なんてことを夢見る昼姫だった。

 ただ、今のところ、ギリギリで我慢できているけれど、目の下にくまの出来ない程度にゲームに打ち込み、『ウルフ』を育成するのであった。